(阿仁町萱草の民話)

  狐 退 治

毎月別のお話を掲載

1999,3,1掲載

10月11月12月1月2月掲載 


 むかし堀切のあたりに悪い狐がいて、通行人をだましたり、鶏を盗むなど、村の人達を困らせていました。
 一人の若者が、この狐を退治してやろうと、ある日の夕方地蔵様のあたりをぶらぶらしていました。若者は、
「このあたりに人をだます狐がいるそうだが、みんな下手くそでおがしでゃ(おかしいな)、おれだばもっと上手に化けるどもなぁ」と、言いながら歩きました。
 すると草むらの中から一匹の狐がぴょこんと跳びだしてきて、
「おまえがそんたに化け方が上手だら、やって見せてけれ」と言いました。
若者は、「そうが、よぐ見でおれ」
 持ってきた大きな袋の中に入り、用意してきた若い女の着物を着て、カツラをつけて出てきました。狐は感心して、
「もっとやって見せでけれ」
と頼むので、また袋の中に入り、今度は白髭のお爺さんになって出てきました。
 狐はますます感心して、
「どうか化け方おせ(教え)でけれ」
 若者は、
「よしよしおせでやるども、んがさ(お前)おせれば、ほが(他)の奴らも次々に頼みに来るんて、明日のえま(今)ごろ、こご(ここ)さ来い」そう言って帰りました。
 
 翌日の夕方、若者が行ってみると、こっちの草むら、あっちの笹藪に隠れていた狐どもが、出てくるわ出てくるわ、何十匹という数になりました。
 若者は、
「おお、みんな来たが、よしよし、まず、んがど(お前達)、きんな(昨日)おれゃ(俺)、おせだよに(教えたように)、この袋の中さみんなへゃれ(入れ)」
 昨日のものよりもっともっと大きい袋の口を開けると、狐たちは先を争って袋の中に飛び込みました。
 そこで若者は、
「おれゃ、『えんやらや』て、さべったら(喋ったら)、んがど『たんころりん』と、さべるのだぞ」
と、言って聞かせ、袋の口をしっかり縛り、肩にかけて引っ張りました。そして、
 『えんやらや』
というと、狐たちは袋の中で、

 『たんころりん』
 『えんやらや』
 『たんころりん』
若者は川の方へ袋を引っ張って行き、下り坂にかかると、袋の転がり方がしだいに早くなって、
 『えんやか、えんやか、えんやか』
 『たんころ、たんころ、たんころ』
とうとう川のなかへ、どぶんと落としました。

「そら、狐退治した!」
 若者が喜んでいると、川の向こうにぬれねずみのようになった一匹の狐が這い上がり、ぶるぶるっと身震いすると、うしろを振り返りながら行ってしまいました。若者はその狐のあとをつけました。すると狐は、やがてとある穴に入って行きました。
 若者がなかの様子を探ろうと、聞き耳を立てていると、なかには年寄りの狐がいるらしく、
「マンダのマンコも死んだずな(死んだのか)、佐山のサンコも死んだずな、ジュウジャのジュンコも死んだずな」と言う声が聞こえてきました。
 生き残った狐が悔しがって、どうしても仕返しをしてやると、力んでいるようでした。しかし年寄りの狐は、
 「人間はながながさがし(賢い)がら、仕返しはやめだほうええ(方がよい)」
いさめている様子でした。
 それでも仕返しをするという生き残った狐に、
「お前は窓から入る気だべども、人間に感づかれて、きぎ(杵)を熱くあぶってのべられれば、お前の術はきがねぐなるよ」
 
 年寄りの狐が言うのを聞いて、若者はいいことを聞いたと、喜んで家に帰りました。そして今晩か明日の晩あたりに来るだろうと、待ちかまえていると、次の日の夜、窓のあたりでかさこそと音がしたかと思うと、狐がとんがった顔を出しました。
 若者が、飛び込もうとする狐の鼻先へ、熱くあぶっておいたきぎを、にゅっと差し出すと、狐は家のなかへどしんところげ落ちました。
 狐は待ちかまえていた人達に取り押さえられてしまいました。

   
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