第10章 寒狭川ダウンリバー PartU



ブローチングで死にそうになる!

9日目(H12.5.13) 天候:曇り後晴れ 場所:寒狭川(愛知県東部 豊川上流)  2名(レイジさん+やまさん)
水位−24cm(だいぶ少なめ)


 5月13日。Wave Walkersのレイジさんと一緒に寒狭川を下ることになった。私にとっては、前回の寒狭川で川に翻弄された経験もあり、リベンジのつもりでいた。


瀬で遊ぶ、やまさん(上)・レイジさん(下)
 本日のダウンリバーは、前回より距離を伸ばし滝神社から弁天橋までの9.5kmの設定だ。曇天ではあるが風もなく絶好のカヤック日和と言っていいだろう。車を弁天橋にデポし、滝神社よりスタートとなった。

レイジさんと2人でのダウンリバー途中のことである。今回は寒狭川2回目ということで、ある程度の川の情報は分かっているつもりであった。

違ったことと言えば、人数が少ない事。水位が減っていた事くらいで前回は水位が-16cm、今回は-24cmと約8cmの水位の差があった。

注意すべきは、滝神社下の瀬くらいで、ダウンリバーするだけであれば、さほど難しい瀬も少なく感じていた。

午前中は、寒狭川ダウンリバー2回目ということもあり、ダウンリバーの楽しさを満喫していた。12:30〜1:30まで食事タイムとなり、ラーメンとコーヒーで一息いれ、2人でカヤックの話題で盛りあがった。

ここまでは、いつものダウンリバーであった。




★現場地図
★状況図
現場の写真(左岸から撮ったもの)
現場の写真(下流から撮ったもの)
決定的瞬間(撮影:nabeさん)

なぜあんな事故がおきたのだろうか。
(ブローチングをしてしまったのである。)

ブローチングとは何か?
”ココをクリック”


昼食も済ませ、体もほぐれてきて、油断があったのだろうか。

事故現場では、レイジさんが、まず瀬に突っ込んで行ったのである。その後に私が20mくらい離れて瀬に入って行くことになった。

それまでは、レイジさんが下ったあとにOKサインが出てから瀬に入っていったのに、今回はやはり油断、慢心があったと思う。

徐々に瀬に近づくに連れ、やたらと岩が多い事に気がついた。

「どのルートだろう?」

前回はまっすぐ真中を通過すれば問題なかったはずだ。
しかし、今回は水量が少ないせいか、岩がやたらと目立つ。
徐々にに艇のスピードが上がりだし、パドリングをしっかりするよう心がける。流れに乗って本流の中心をすすむ。瀬にはいり、急速に艇のスピードがあがると同時に水飛沫が顔にかかる。

ここまでは、ぜんぜん問題はなかった。

と、本流の真中に直径30cmくらいの岩が水面に顔を出している【A】。その岩の左岸よりにも数個の岩が顔を出しているのが見えた。

「右によけなきゃ。」

と、思うが本流の流れは強く、すぐには移動できない。間もなく岩が目前にきてしまい、それでもなんとか横をすり抜けた・・・・・・・・・・・つもりであった。

「ガガ〜〜ン」と音がすると同時に、バウが右を向いてしまった。艇の向きが川と垂直に近くなってしまった。本流に対して真横に艇が向く感じだ。そのまま、今度は目前に直径1mくらいの岩が【B】・・・・・・・。

「ヤバイ!!」

と思った瞬間に岩に張りついてしまった。【B】
本当に一瞬の出来事である。
本流の流れがデッキにかぶる。

「このままだと、張りついたまま沈だ。」

それだけは、絶対に避けなければならない。右膝を押し上げるようにして艇を起こし必死で岩にしがみつく。なんとか張りついたままの沈だけは免れた。

しかし、水圧はものすごく、艇はビクともしないばかりか、スプレイスカートまでも容赦なく押しつけ剥がそうとする。

(ここで、スプレイスカートを外したらヤバイよな。)

そう思っていると、下流から必死の形相で走り寄ってくるレイジさんが見えた。

(よかった〜。助かるかもしれん。)

レイジさん「大丈夫か?とりあえず、バウに手が届きそうだから引っ張るけどいいか?」

やまさん「OK」

レイジさんは、右岸から手を延ばし、バウをつかむとグイっと引っ張った。

すると、バウとスタンに均等にかかっていた水圧のバランスが崩れ、艇は岩からはがれた。
レイジさんも、手を伸ばすのがギリギリだったせいで、一緒に流されてしまった。しかし、そこは経験豊かなしっかりとセイフティーポジションで流されていく。下流の流れがなくなったところで岩に上がり、2人とも事無きを得た。

今回の事故で、前回はこうだった、というのは通用しないことを身をもって体験してしまった。川は生き物だと言うが本当にその通りである。普段からよく行く川でも、日に日に変化すると言う事を覚えた。

ロールがすぐにできた、フェリーもピールアウトも練習した。ダウンリバー程度ならさほど危険はない。etc・・・・・・・・
ちょっといい気になっていたのかもしれない・・・・・・。
今回のダウンリバーで大事な事を学んだ気がする。

レスキューで疲れたレイジさん レスキューされて疲れたやまさん



★★教訓★★
1.川には絶対に一人で行かない!

今回のツーリングで身にしみてわかった事は、パートナーの重要性である。仮に単独で行っていたとしよう。その場合、誰かが来るのを岩にしがみついて待っているか、勝負に出てスプレイスカートを外して脱出を試みるか。いずれにせよ、ヘタをすれば死が待っている事は明確である。
やはり、ツーリングは、最低でも3〜5人のメンバーがベターだと考える。

2.水位が変わると川の様子は激変する!

川は日ごとに変化する。ちょっとした水位の変化で、この前は何でもなかったところが、危険個所に変わっていたり(今回がいい例である)、大水の後では流れががらりと変わっていたり、倒木などが行く手を塞いでいたりと、以前の経験を100パーセント鵜呑みにすることは大変危険である。
3.スカウティングは絶対に必要だ!

行く先が見えない場合、事前に艇から降りてスカウティングをしていれば、ルート把握もしくはポーテージ等の手段が選ぶことができたと思う。何故、今回スカウティングをしなかったか?やはり、油断、慢心以外の何者でもないように思う。
4.必要最低限の知識

岩に張りつきそうになった時、咄嗟に考えたのが本で読んだブローチングになったらどうするか?と言う文である。事前に多少の知識を持っていたため大事に至らずにすんだが、何の知識も持たずに今回のような事故にあったらあのような行動がとれたか疑問である。やはり安全に関する必要最低限の知識は川に出る上で必要だと考える。
5.レスキュー用品

今回、たまたまビクティム(被害者)が手の届くところにいた事と、一人でも艇が動かせる位の水量だったため、レスキューできたが、これが手の届かないところで発生した場合はロープ等のレスキュー用品が必要だったと考える。


今回のツーリング中のブローチングは、川に慣れてきて油断、慢心があったのかもしれない。しかし、ブローチングにあって幸いにも無傷で生還できた事は一緒にツーリングしてもらったレイジさんのお陰だと思っている。大げさに言えば命の恩人でもあるわけだ。

この場を借りてお礼を申し上げます。レイジさん、本当にありがとう!!





第11章 天竜川ダウンリバー・・・・・・・・・・・→



目次第9章 気田川 U第10章 寒狭川ダウンリバーU第11章 天竜川