サイバーファイター

 

登場人物

 バイハン(二一歳)日本人・男。サイバーファイターチームリーダー。

 フリュー(二〇歳)日本人・女。サイバーファイターチームメンバー。

 ライザー(二一歳)日本人・男。同。

 ローエ (二〇歳)日本人・男。同。

 ベルナー(二一歳)日本人・男。同。

 検査官(声のみ)

 オペレーター(声のみ)

 モニターコンピューター(声のみ)

 

 

○宇宙空間

   浮かび上がる地球。その軌道上の宇宙ステーション。

オペレーター(声のみ)「サイバーファイター発進せよ」

   ステーションから発進する五機のサイバーファイター戦闘機編隊。

オペレーター「エネミーズの宇宙船、接近中」飛行するサイバーファイター。

   宇宙空間の奥から近づいて来るエネミーズの宇宙船。

   宇宙船、急に方向転換し、元来た方向へ帰って行く。

オペレーター「エネミーズの宇宙船、方向転換。戦闘態勢解除。ただちに散開して帰投せよ」

   散開するサイバーファイター。

   だが、三号機だけが直進している。

オペレーター「どうした、三号機? ただちに帰投せよ」

   直進し続ける三号機。

 

○三号機のコックピット

   両目を見開いたまま呆然としているベルナー(二一)。

オペレーター「三号機、ただちに帰投せよ。どうした、ベルナー?」

   ベルナー、コックピットの右側にある自爆システムのスイッチを入れる。

   コックピット正面のモニタースクリーンに自爆システムのカウントダウンが映る。

オペレーター「自爆システムを作動させてどうするつもりだ? すぐに止めるんだ。おい、ベルナー!」

   両目を見開いたままのベルナー。

 

○宇宙空間

   直進する三号機。

   爆発する。

バイハン(ナレーション)「はじめての出撃で、ベルナーだけが帰ってこなかった。ぼくたちは、過酷な訓練を乗り切ってきた仲間だった。任務を終えたのち、ぼくたちは地球に呼び戻された」

 

○閉鎖環境施設・ブリーフィングルーム

   テロップ「地球防衛機構・閉鎖環境施設」。

   正面に自動扉。その前に楕円形の会議卓。椅子が六つ、周りに並んでいる。

   そばにモニターコンピューターのキイボードとディスプレイ、操作用の椅子。

   部屋の隅に蓋の閉まった戸棚と電子レンジ、小さな流し。天井には監視カメラ。

   自動扉、開く。

   バイハン(二一)、ライザー(二一)、フリュー(二〇)、ローエ(二〇)が入ってくる。全員制服姿。手にはそろいのバッグを下げている。

ライザー(部屋の中を見回しながら)「いやあ、味気ない所だな」

ローエ(バッグを床に置きながら)「訓練の施設にもこんな所がありましたよね。ここも訓練施設の一種なんですか?」

バイハン(部屋の中をきょろきょろ見回しながら)「くわしくはわからない。閉鎖環境施設って言うくらいだから、宇宙飛行士の訓練にも使うんだろ」

   バイハン、部屋の隅に流しを見つけてそばに寄り、蛇口から水を出して手を洗う。その間にフリュー、モニターコンピューターのキイボードのそばに寄り、顔を近づけて見る。そして、電源を入れる。ディスプレイにアニメーション・パターンが映る。

フリュー(バイハンに)「バイハン、わたしたちが到着したこと、モニターコンピューターに入力しとくわよ」

   フリュー、操作用の椅子に腰掛けてキイボードに向かう。

バイハン(ハンカチで手を拭きながら)「ああ、頼む」

   フリュー、キイボードを操作する。

モニターコンピューター「こちらモニターコンピューター。被験者四名、到着。管理センターへ連絡します」

   フリュー、椅子から立ち上がる。

モニターコンピューター「管理センターより連絡が入っています。つなぎます」

 

○ブリーフィングルーム

   天井の監視カメラから四人を見下ろした映像。

検査官「サイバーファイターの諸君、ごくろうだった。私は今回の検査の検査官だ。これから検査の終了まで、諸君の行動を細大もらさず観察させてもらう。諸君の行動を客観的に見るために、私は諸君のいる閉鎖施設から離れた管理センターにいる。今回の検査は四十八時間を要する予定だ。その間、外部との接触は一切断ってもらう」

 

○ブリーフィングルーム

   自動扉が閉まる。

   思わずそちらを見る四人。

バイハン「待ってください。検査とは何ですか? われわれは宇宙ステーションから帰還して何の説明も受けずにここへ呼ばれたんですが……」

検査官「わかった、説明しよう。今回、三号戦闘機を操縦していたベルナーは自ら機体の自爆システムを作動させたことが記録されている」

   言葉もなく聞く四人。

検査官「本来、戦闘機の機密保持のために使う自爆システムを、なぜ戦闘に入りもしない状態でベルナーが作動させたか、その原因は究明されなければならない。ベルナーの心理的要因に依るものだとした場合、サイバーファイターのメンバーとしての適性に問題があったということだ。君たち、他のメンバーもベルナーと同様の訓練を受けてきた。そこで、諸君の適性について、再度検査を行うこととなった。この、閉鎖環境施設で四十八時間を過ごしてもらい、協調性について見せてもらう。加えて、長い間ベルナーと寝食を共にしてきた君たちに、ベルナーがあのような行動に出た理由を考えてもらいたい」

 

○ブリーフィングルーム

   天井の監視カメラから四人を見下ろした映像。

検査官「各自に個室が割り当ててある。部屋の扉に各自の名前が貼ってあるので、荷物を置いて休んでくれ。一時間たったら一人ずつ順に検査室で面接を行う。以上だ」

 

○バイハンに割り当てられた個室

   暗い室内。扉が開く。

   バイハンがバッグを持って入って来る。

   扉のわきのスイッチを押して灯りをつける。

   寝台と小さなテーブルと椅子一個だけが置かれている。壁にデジタル時計。

バイハン「たしかに殺風景だな」

   バッグを床に置く。

 

○検査室

   室内に設置したカメラから見た映像。

   正面に椅子。

検査官「入りたまえ」

   扉が開いて、バイハンが入って来る。

バイハン「失礼します」

検査官「かけたまえ」

   バイハン、椅子にかける。

   テロップ「コードネーム・バイハン(21歳)」

検査官「君はサイバーファイターのリーダーだね」

バイハン「一応がつきますけど」

検査官「ベルナーの件をどう思うかね?」

バイハン「本当に……残念です。ベルナーは明るい性格で、チームの潤滑油の役割を果たしていたのですが……」

検査官「サイバーファイターは、言わば試験的に作られたチームだ。今回のことはよく吟味して、チームの将来についても考えなければならない。今回のことで地球防衛政策の変更もありえる」

バイハン「場合によってはサイバーファイターが解散させられることもありうるということですか?」

検査官「そうは言ってない」

バイハン「われわれは、人類を守るという理想の許できびしい訓練に耐え抜いてきたんです。われわれがエネミーズに立ち向かえないとしたら、いったい誰が人類を守るんですか?」

 

○検査室

   ライザー、椅子にかける。

   テロップ「コードネーム・ライザー(21歳)」

検査官「君は文化人類学が専攻だそうだね」

ライザー「昔、ちょっとかじっただけですよ」

検査官「ベルナーの件をどう思うね?」

   ライザー、黙る。

検査官「どうしたね?」

ライザー「あの……その……何て言ったらいいのか、言葉が見つからなくて……。ベルナーはサイバーファイターの優秀なメンバーでした。でも、ある意味では犠牲になったのではないかと思います」

検査官「エネミーズとの闘いの犠牲と言う意味かね?」

ライザー「いえ、そうではなくて……」

検査官「では、どういう意味かね?」

ライザー「……あの……」

検査官「はっきり言ってくれたまえ。この検査の結果で査定を行うことはないよ」

ライザー「はっきり言えば、エネミーズとの闘いという概念自体、疑わしいと思っているんです」

検査官「ほう、どういう意味かね?」

ライザー「エネミーズは政治家たちによって演出された仮想の敵じゃないかという気がするんです。ベルナーも、そうした演出に巻き込まれて死んだんじゃないかと……」

検査官「面白いね。しかし、君もエネミーズの宇宙船を見ただろう。それでも実体がないと言うのかね?」

ライザー「実体がないとは言ってません。ただ、エネミーズが政治家たちの言うように、ほんとうに危険な存在なのかどうか疑わしいと思ってるんです」

 

○検査室

   ローエ、椅子にかける。

   テロップ「コードネーム・ローエ(20歳)」

検査官「君は医師の資格を持ってるそうだね」

ローエ「はい」

検査官「専門は何かね?」

ローエ「脳神経外科です」

検査官「君の年で医師になれるというのは優秀だということだね」

ローエ「とんでもないです。ぼくは手術や臨床が苦手なんです。だから資格だけは持っていますが、だめな医者なんです。たしかに子供の頃から天才扱いされてました。飛び級制度のおかげでこの年で医者の資格はもらいました。でも、それは興味のあることに夢中になってやって来られたからそうなったにすぎないんです。本来、医者に求められるヒューマニズムや強さといったものが、ぼくにはないんです」

検査官「ベルナーの件について、感想があるかね?」

   ローエ、やや黙っているが、不意に涙

   ぐむ。

ローエ「ベルナーさんは……そりゃ明るくて、いい人でした。ぼくにとっては兄のような存在で……。ほんとうに……ほんとうに残念です。死ぬべき人じゃないのに……」

   ローエ、涙をぬぐう。

ローエ「すいません」

 

○検査室

   フリュー、椅子にかける。

   テロップ「コードネーム・フリュー(20歳)」

検査官「君はベルナーといっしょに地上勤務をしていたことがあるんだね?」

フリュー「はい。半年くらいですけど」

検査官「どんな内容だったのかね?」

フリュー「地球防衛機構の施設設計に関する仕事です。でも、ベルナーは緊急用のシステムの設計で、わたしはそのプログラミングでしたから、作業場所もちがいました」

検査官「ベルナーの死についてどう思うね?」

   フリュー、少し黙る。

フリュー「ベルナーの死は仕方のないことだと思います」

検査官「と言うと?」

フリュー「われわれはゲームをしているのではないんです。エネミーズとの戦争をしているんです。親しいベルナーの死は残念ですが、戦争にはいつの時代も犠牲はつきものだと思います」

検査官「君は女性だが、この闘いを怖いと思ったことはないかね?」

   フリュー、やや答えに詰まる。

フリュー「怖いと思ったことがまったくないと言えば嘘になります。でも、わたしがどんな感想を持とうと、戦争は進んで行くのではないですか。わたしの感想など、歴史の中では瑣末な芥にすぎません」

 

○ブリーフィングルーム

   バイハン、電子レンジから暖まった夕食セットを取り出し、会議卓に運ぶ。

   会議卓では他の三人が腰掛けている。

   三人の前にはそれぞれ湯気の立った夕食セットとお茶の注がれたカップが置かれている。バイハン、会議卓に夕食セットを置く。ローエが横からお茶の入ったカップを差し出す。

バイハン「ありがとう。じゃ、食べよう。いただきます」

他の三人「いただきます」

   皆、プラスチックのフォークを取り上げて食べ始める。

ライザー(お茶を一口飲んで)「まずいな。せめてビールが飲みたいな」

バイハン「検査とは言え、われわれは任務に就いてるんだぞ。ぜいたくは言えないだろ」

ライザー「たしかに」

   黙々と食べる四人。

   フリュー、不意に目を細める。

   フォークを持ち上げる。フォークを持つ右手が小刻みに震える。フリュー、驚いて右手を見つめる。震えが大きくなり、フォークを取り落とす。フォーク、音を立てて床に転がる。

バイハン(フリューの方を見て)「どうした、フリュー?」

フリュー(左手で右手を押さえながら)「何でもないわ。ちょっとすべって……」

   フリュー、急に右手で口を押さえる

フリュー「うっ……」

ライザー「フリュー」

   フリュー、背を丸めて苦しみ出す。

   驚くバイハン、ライザー、ローエ。

   フリュー、椅子から転げ落ちる。

バイハン(立ち上がりながら)「おい、だいじょうぶか?」

   ライザーも立ち上がり、フリューのかたわらに寄る。

   腰掛けたまま呆然と見守っているローエ。

ライザー「おい、ローエ、水を汲んでくれ」

ローエ「はい!」

   はじかれたように立ち上がるローエ。

   あわてて流しに駆け寄る。

   バイハンもフリューのそばに寄る。

   意識を失ったかのように両目を閉じているフリュー。

ローエ「水です」

   コップを差し出す。

   右手でコップを受け取るライザー。フリューのそばにひざまずき、左手でフリューの頭をこちらに向ける。

ライザー「フリュー、だいじょうぶか?」

   フリュー、両目を開ける。

ライザー「水だ。飲んで」

   フリューの唇にコップを当てる。フリュー、少し水を飲む。ごくりと嚥下して、軽くむせる。

フリュー「ありがとう。もうだいじょうぶよ」

ライザー「立てるか?」

フリュー「ええ」

   フリューとライザー、ゆっくりと立ち上がる。バイハン、そばにあった椅子をフリューのうしろに持っていく。

バイハン「掛けて」

   腰掛けるフリュー。

   バイハン、ローエの方を見る。

バイハン「ローエ、フリューを診察してくれないか」

ローエ「えっ?」

フリュー「わたしはだいじょうぶよ」

バイハン(フリューに)「君は黙ってろ」

ローエ「でも……専門家を呼んでもらった方が……」

バイハン「今、われわれは外部との接触は禁止されているんだ。第一、君は医者だろう?」

ローエ「はい……」

バイハン「この施設に医療設備はないようだから、フリューの部屋で診察してくれ。(フリューの方に向き直って)いいな」

フリュー「わたしはだいじょうぶだって言ってるでしょう。ちょっと気分が悪くなっただけよ」

バイハン「診察を受けろ。これは命令だ。(ローエに)じゃ、頼む」

ローエ(大きく息をして)「わかりました。簡単な診察しか出来ませんけど」

ライザー(フリューに手を貸そうとしながら)「立てるか?」

フリュー(憤然とした表情で)「だいじょうぶよ」

   フリュー、一人で立ち上がる。

   フリューとローエ、個室の扉の方へ歩いて行く。見送るバイハンとライザー。

 

○ブリーフィングルーム

   バイハンとライザー、腰掛けてお茶を飲んでいる。

ライザー「どうしちまったんだろうな?」

バイハン「わからない。今回の検査で緊張したせいかもしれないな」

ライザー「でも、フリューはおれたちよりよっぽどタフに出来てるぜ。閉鎖された環境に耐える訓練も積んでる」

   バイハン、黙ってお茶を飲む。

ライザー「何かあったのかもしれないな」

○フリューの部屋。

   寝台に腰掛けているフリュー、制服のジャケットのファスナーを締めている。椅子に腰掛けたローエ、さかんにメモを取っている。

フリュー(皮肉げに)「どんな診断をいただけるのかしら、先生?」

ローエ「あとで報告します。最後に聞いておきたいんですけど……」

フリュー「なに?」

ローエ「あの……聞きにくいんですけど……女性特有の……」

フリュー(小さくため息をついて)「最後の生理なら二週間前よ」

ローエ「ありがとうございます(メモする)」

 

○ブリーフィングルーム

   戻ってくるフリューとローエ。立ち上がるバイハンとライザー。

バイハン「どうだった?」

ローエ(メモを見ながら)「特に異常はありません。呼吸、脈拍、瞳孔反応、膝蓋腱反応、みんな正常です。くわしいことは設備の整った施設で調べた方がいいと思います」

フリュー「ね、言ったでしょう、だいじょうぶだって」

バイハン「わかった。食事が途中だったけど続けるかい?」

フリュー「いらないわ」

ローエ「ぼくも、もういいです」

バイハン「よし、じゃ後片付けをしよう。フリュー、君は早く休むんだぞ」

フリュー「それも命令?」

バイハン「そうだ」

 

○フリューの個室

   暗い室内。寝台でフリューがタンクトップ姿で眠っている。

   寝苦しそうに表情を歪める。寝汗をかいている。

ベルナーの声「フリュー、フリュー」

   はっと目を覚ますフリュー。上半身を起す。

   しばし闇を見つめるフリュー。

   立ち上がって扉のそばに行き、灯りをつける。そして、テーブルのそばのバッグを開ける。バッグの奥から透明なケースに入った一枚の写真を取り出す。ベルナーのほほえんでいる写真である。

   写真を手にとってじっと見つめるフリ

   ュー。

フリュー「ベルナー……」

   涙ぐむ。

 

○ブリーフィングルーム

   四人とも制服を着て席についている。

検査官「諸君、おはよう。今回の事故について、貴重な記録が採取できた」

 

○ブリーフィングルーム

   天井の監視カメラから四人を見下ろした映像。

検査官「ベルナーが事故を起した直前のコックピットの映像だ」

 

○ブリーフィングルーム

   大きく目を見開くフリュー。緊張している。

検査官「よく見て、ベルナーの心理について考えてもらいたい。では、再生する」

   モニターコンピューターのディスプレイに映像が映る。

 

○ディスプレイの映像

   三号機のコックピットのようす。

   席についているベルナー。

オペレーター「エネミーズの宇宙船、接近中」

ベルナーの正面のモニタースクリーンに見えるエネミーズの宇宙船。宇宙船、チカチカと点滅するように光る。呆然と見つめるベルナー。

   宇宙船、光るのを止め、方向転換し去って行く。

オペレーター「エネミーズの宇宙船、方向転換。戦闘態勢解除。ただちに散開して帰投せよ」

   呆然としたままのベルナー。

オペレーター「三号機、ただちに帰投せよ。

 どうした、ベルナー?」

   ベルナー、コックピットの右側にある

   自爆システムのスイッチを入れる。

   コックピット正面のモニタースクリーンに自爆システムのカウントダウンが映る。

オペレーター「自爆システムを作動させてどうするつもりだ? すぐに止めるんだ。おい、ベルナー!」

   映像を見つめるフリュー。

   途切れる映像。

   ディスプレイにアニメーションが流れる。

検査官「以上だ。この直後、三号機は自爆し

 た」

   黙り込む四人。

検査官「どう思うかね、バイハン」

バイハン「ベルナーが自分で自爆システムを作動させたのはまちがいないようですね。信じられません」

   フリュー、膝の上に置いた右手がかすかに震える。

検査官「ライザー、君はどう思うね?」

ライザー「コックピットのモニタースクリーンに映っていた光は、エネミーズのものですね。貴重な映像だと思います」

検査官「ローエ、君の意見は?」

ローエ「ベルナーさんの脈拍や血圧のデータは残ってないんですか?」

検査官「ベルナーの身体関係のデータは三号機のローカルコンピューターに貯えられていた。宇宙ステーションのコンピューターに転送される間もなく爆発した。だから残っていない」

ローエ「残念です。それがわかれば手がかりになったんでしょうけど……」

検査官「フリュー、どうかね?」

フリュー「ベルナーは……精神的に……弱か ったんじゃないかと……思います……」

   フリュー、目を閉じてうつむく。

バイハン「どうした、フリュー?」

フリュー(うなる)「ウッ、ウーッ……」

   立ち上がるバイハン、ライザー。腰掛けたまま呆然とするローエ。

フリュー(肩で息をしながら)「ウーッ、ウーッ……」

   ライザーとバイハン、フリューのそばに寄る。

ライザー「フリュー、落ち着け」

   フリュー、うなるのを止め、あお向けに顔を上げる。目は閉じている。

バイハン「息を吸って」

   フリュー、大きく息をする。

ライザー「落ち着いたみたいだな」

バイハン「ローエ、水を汲んでくれ」

ローエ「はい」

   ローエ、立ち上がって流しに行く。

   バイハン、天井の監視カメラの方を向く。

 

○ブリーフィングルーム

   天井の監視カメラから四人を見下ろした映像。

バイハン「検査官」

検査官「何だね?」

バイハン「今回の検査を中止して下さい」

   黙っている検査官。

バイハン「ごらんの通り、フリューはふつうの状態じゃありません。検査を中止して、設備の整った施設でくわしく診察を受けさせて下さい。おねがいします」

    ローエ、水を汲んだコップをライザーにわたす。ライザー、飲ませようとするがフリューは動かない。

検査官「それは出来ない」

バイハン「なぜですか? フリューは人類を守るサイバーファイターの一員なんですよ」

   答えない検査官。

 

○ブリーフィングルーム

バイハン「検査官!」

   フリュー意識を取り戻したかのように、目を閉じたまま顔を動かす。ライザー がコップを口に近づけると、口をつけて飲む。ライザー、コップをローエに戻す。ローエ、コップを会議卓の上に置く。

   フリュー、目を閉じたまま口を開く。

フリュー(かぼそい声で)「バイハン……」

   バイハン、フリューの方を見る。

フリュー(目を閉じたまま)「バイハン……ライザー……ローエ……」

ライザー「どうした?」

フリュー「ライザー……ここは……どこだ?」

ライザー「しっかりしろ、フリュー!」

フリュー「おれは……フリューじゃない……。フリューの……身体の中に……いるらしいけど……」

ライザー「何だって?」

フリュー「おれだよ……ベルナーだ……」

   驚く三人。

ライザー「これは……ポゼッションだ」

バイハン「ポゼッション?」

ライザー「いわゆるシャーマンに見られる憑依現象だ」

バイハン「精神的な症状の一種じゃないのか?」

ライザー「医学的に見ればそうかもしれない。しかし、現象としては、まさに死者の霊がとりついているのと同じだ」

 

○ブリーフィングルーム

   天井の監視カメラから四人を見下ろし

   た映像。

検査官「予想が的中したようだ」

   バイハン、カメラの方を見る。

バイハン「どういうことですか?」

検査官「実は、以前からエネミーズが地球人に憑依することがあるという事例は報告されていたのだ」

   呆然とするバイハン。

検査官「今回の、ベルナーの不可解な行動が明らかになったとき、われわれはベルナーがエネミーズに憑依されたのではないかと疑った。そして、他のメンバーにも憑依される者が出るのでないかとも考えたのだ。

 だから諸君を再検査して、ようすを見ることにしたのだ」

バイハン(憤然として)「どうしてそれを最初から教えてくれなかったんです」

検査官「エネミーズが地球人に憑依することがあるという事実は、地球防衛機構の極秘事項だ。エネミーズが誰にでもとりつく可能性があるなどということがおおやけになってみたまえ、地球は大混乱に陥る」

バイハン「じゃ、フリューは……」

検査官「まちがいなくエネミーズに憑依されているようだ」

 

○ブリーフィングルーム

   フリューの方を見るバイハン。

   フリュー、口元を苦しそうに歪めながら話す。

フリュー「なんでもない……なんでもないんだ……」

   ライザー、ローエもフリューの方を見る。

フリュー「おれは、たしかにエネミーズに導かれるままに……自爆システムのスイッチを入れた。あのときは……死が全然怖くなかった。そして……それは……まちがいなかった。エネミーズは……われわれのいう死を超越しているんだ。だから……おれもエネミーズと共に……フリューの身体に入ることが出来た。人類は……エネミーズと一体となることで……死を超越出来るんだ……」

検査官「黙れ、黙れ! 生死を超越出来るなど、たわごとだ! そうやって人類につけ込む気だろう」

フリュー「なんと……思おうと……勝手だ……」

   フリュー、首をうなだれる。

ライザー「フリュー」

検査官「サイバーファイターの諸君」

   カメラの方を向く三人。

検査官「諸君を任務に就かせるに当たっては、莫大な予算がかかっている。だから、ほんとうに残念なのだが、諸君には死を覚悟してもらう」

   カメラを凝視する三人。

検査官「エネミーズに憑依された者を地球上に放置しておくわけにはいかない。そして、憑依の事実を知っている者も少ない方がいい。諸君のいる施設にも自爆システムが装備されている。これからそのスイッチを入れる」

   緊張する三人。

検査官「諸君、短い付き合いだった。さらばだ」

モニターコンピューター「閉鎖環境施設、自爆システム、スタート。カウントダウン開始」

ディスプレイの画面が切り替わり、カウントダウンが始まる。

ライザー(バイハンに)「どうする?」

   口を開きかけるが言葉でないバイハン。

 進むカウントダウン。

   不意に目を開くフリュー。

フリュー(かすかに)「ウーッ」

ライザー(フリューの方を見て)「フリュー……」

   フリュー、すっと立ち上がる。

   三人が見ている間にモニターコンピューターのキイボードへ寄る。操作用の椅子に腰掛け、ものすごいいきおいでキイボードを操作しだす。

   ディスプレイに、フリューが入力したコマンドがカウントダウンの画面に重なって映し出される。

   ピーッとブザーが鳴り、カウントダウンが止まる。

モニターコンピューター「緊急割り込み、緊急割り込み。閉鎖環境施設、自爆システム停止」

フリュー(ベルナーの口調で)「まじめに仕事しておいてよかったぜ」

バイハン「ベルナー……」

フリュー(ベルナーの口調で)「前の仕事でこの施設のことも知ってたんだ。さあ、扉も開いていやるよ」

   フリュー、キイボードを操作する。

   自動扉が開く。

フリュー(バイハンたちの方を見て)「みんなに会えて……よかった……」

   フリュー、急に目を閉じてうなだれる。

バイハン「ベルナー!」

   フリューのそばに駆け寄る三人。

   ライザー、フリューの肩に手をかける。

ライザー「フリュー、フリュー」

   フリュー、目を開けて顔を上げる。

フリュー「もうだいじょうぶよ……。ベルナーはエネミーズの許に去って行ったわ」

バイハン(三人に)「ここを出よう」

   バイハンを見つめる三人。

バイハン「準備する」

   個室の方へ歩いて行こうとするバイハン。

 

○ブリーフィングルーム

   天井の監視カメラから四人を見下ろし

   た映像。

検査官「待て、バイハン。そこを動くな」

   立ち止まり、カメラをにらみつけるバイハン。

検査官「こ、今回のことは、本当にごくろうだった。諸君に慰労金と特別休暇が出るように掛け合ってやる。だから、ここに留まっていてくれ」

   バイハン、会議卓の上のコップを持ち上げ、思いっきりカメラにぶつける。カメラが壊れて、映像途切れる。

                  了

                           2003年6月執筆

 

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