第3章:遺伝子神話の現れか

生命誕生

遺伝子を追及していくと、当然、どのようにしてDNAができたのかというところまで行き着くはずです。それは、生命の誕生を解明することでもあります。

この宇宙に地球が誕生したのは、およそ48億年前だといわれています。そして、その地球に生命が誕生したのは35〜6億年前と推定されています。

生まれたばかりの地球はマグマの塊のようなもので、ガスや水蒸気を大量に放出していました。ガスが大気となり水蒸気は厚い雲となって雨が降り注ぎ、地球は次第に冷えていきました。そして、大量の雨は原始の海をつくります。地球最初の生命は、その原始の海で誕生したといわれています。

従って、生命が誕生した当時の地球環境を再現することができれば、生命を作り出すことができるのではないかと考えるのは科学者として当然の帰結でしょう。

1953年に、シカゴ大学の大学院生であった生化学者スタンレー・ミラーが画期的な実験を行いました。

彼は、当時海水の成分を水、メタン、アンモニア、水素の混合物だと推定し、その水を循環させながら電気火花を飛ばして放電したところ、何と次の日には有機物のアミノ酸ができていたのです。

原始の海と想定される水溶液の中では、アミノ酸などの有機物はもちろん、アミノ酸からタンパク質様の物質までできることが確認されています。
しかし、残念ながらフラスコの中でタンパク質様の物質やDNAの材料である塩基はできても、それが結びつかないのです。

科学者達は、おそらくタンパク質様の物質が、いくつかの塩基が結びついたシンプルなRNAを取り込んで、そこで初めて生命体になると考えていますが、これまでのさまざまな実験でもそこまでは到達することができません。

胎内で生命の進化の歴史をたどる胎児

地球で誕生した最初の生命は、バクテリアのような原核生物だと考えられています。それが進化を繰り返し、植物と動物に別れ、さらに動物は魚類から両生類、爬虫類、哺乳類というように進化していきました。

実は、人間も受精卵となって胎児になり、赤ちゃんとして生まれてくるまでに、母親の体内で35億年の生命の進化の歴史をたどっているのです。
受精卵が細胞分裂を繰り返して、胎児がある程度の形になるとき、その姿は魚のようになっています。その形が生物の進化のように変化して、最後は人間の姿になって行くわけです。

胎児の途中で、指の間に水掻きのような膜ができたり(不思議なことに、この水掻きはしばらくすると消えてしまいます)、生まれてからも尾てい骨のように、かつて尻尾であった名残も存在します。

人間は、受精卵となってから赤ちゃんとして生まれてくる、わずか10ヶ月の間に、35億年の歴史を再現しているともいえるでしょう。

遺伝子の仕組みは、大腸菌のようなバクテリアでも人間でも同じで、遺伝子の中にはバクテリアになるものも、魚や爬虫類になるもの、すべてが含まれているわけです。

ただし、バクテイア、魚類、爬虫類、人間とでは、それぞれ発現する、つまり働く遺伝子が違うために、そのように分けられているといえます。

私たちは、人間となるための遺伝子が働いた結果、人間として生まれてくるのであり、爬虫類は爬虫類となるための遺伝子が働いた結果にすぎないのです。

遺伝子の中には壮大な無駄があることは、すでに説明しましたが、使われなかったり、どんな働きをするのかわからない遺伝子の中に、おそらく生命の進化を解き明かす謎が隠されているのではないでしょうか。

精子バンクに眠るエリート精子

遺伝子工学の応用が広く社会に浸透し、さまざまなビジネスにもなっているアメリカ社会。そのアメリカでバイオテクノロジー関連の新聞広告でよく目に付くのが、不妊症の人向けの精子バンクや卵子バンクです。

なかでも、精子バンクへの需要は多く、精子バンクでは精子提供者の広告も出しています。その広告内容を見ると、高学年、高身長といった男性の精子に人気があるようです。精子バンクは不妊症の女性だけでなくても利用できますから、こうゆう現象が起きるのでしょう。とくに、ハーバード大学などの名門校が多いアイビーリーグの人気がすさまじいものがあるといいます。

しかし、そうしたエリート精子を利用したからといって、生まれてきた子供が父親のようなエリートになるという保証はありません。可能性としてはありますが、父親のいいところを全部持って生まれてくる子供などいないのです。

頭がいいとか、身長が高いとか、ルックスがいい…・等といった世間的な能力を代表する遺伝子があると信じ込んで、遺伝子を選択することはやるべきことではないと思います。

それは、親が自分の都合のいいような人生を子供に押しつけることになるからです。