巨大隕石により、1億6000万年も地上を支配した恐竜は滅んだ。
しかし、それ以前から植生の変化が彼らの食生活に影響を及ぼし、花や果実と協力関係を結んだ昆虫と哺乳類の時代が始まっていた。
花の誕生から恐竜衰退の謎に迫る。
第1章:恐竜絶滅が哺乳類の時代を開いた
今からおよそ2億2500万年前に誕生した恐竜。生命史上最大最強の陸上動物たちは、その後1億6000万年あまりにわたって地球生態系に君臨した。私たち人類の歴史が約300万年だから、そのなんと40倍もの長きにわたって繁栄したことになる。
しかし、今から6500万年前に、恐竜は突然姿を消す。
恐竜絶滅の理由は、実はまだよく分かっていない。現在絶滅説は60を越えるとも言う。
恐竜以外のほとんどの生物が生き残ったことも、この問題をさらに難しくしている。
この中で現在最も有力視されているのが、1980年アルバレス博士が発表した「巨大隕石説」である。中生代と新生代を分けるK/T境界層と呼ばれる地層に、通常ほとんど見られないイリジウムという金属元素が異常に多く含まれることから、これは宇宙からやってきた巨大隕石が衝突した痕跡であると考えたのである。
恐竜絶滅の最新のシナリオは次のように描かれている。6500万年前のある日、直径10キロメートルの隕石が地球に向かう。大気圏に突入した隕石のスピードは秒速20キロメートル。衝突のエネルギーは、広島型原爆の数千倍に相当する。2000度を超える灼熱地獄。火砕流が90分で地球を一周する。やがて衝突によって空高く巻き上げられた大量の粉塵が地球全体を覆い、太陽の光をほとんど通さない冬の時代を迎えて、大規模な気候変動が生じた。この大惨事が恐竜を絶滅に追いやったに違いない。
しかし今、恐竜絶滅の真相に迫ろうとする新しいアプローチが始まっている。その一つが、恐竜時代を生態系からとらえる視点である。特に食物連鎖のスタートである植物を見つめることによって、恐竜時代を検証しようというものである。
フィリップ・カリー博士は、「イリジウムの凝集は確かですから、隕石衝突があったことは否定しません。でも私としては、生態学的変化が起きていると思う。注目すべき点は、花をつける植物が、恐竜時代のほぼ中間の時期に登場しているということです。それは大規模な生態学的変化です。そのために別種の動物相が多様化し、その代わりに恐竜はほとんど種のない動物相になってしまった。恐竜は突然、絶滅したのではない。それはゆっくりとした絶滅なのです。」と、考えている。
第2章:動物の楽園を作り上げた植物たち
植物体は生命史では極めて短い時間、たった5000万年ほどの間に、上陸、新たな繁殖器官である種子の開発、そして巨大化と、めざましい発展を遂げたのである。
こうして植物は、巨大木生シダ類と裸子植物からなる大森林を作り上げていった。恐竜が誕生する1億年近くも前に、植物は彼らが暮らす環境・風景を整えていたのである。
今から2億2500万年前、いよいよ恐竜の時代が幕を開ける。しかし、登場したばかりの恐竜たちは、小さな動物だった。なぜ彼らは巨大化したのだろうか。それは巨大な植物のためではないかと考えられている。そして、1億5000万年前頃に恐竜は全盛期を迎える。
巨大森林が、彼ら肉食・草食恐竜たちを養っていた。それがジュラ紀の生態系・植物連鎖だった。
第3章:花という名の革命
1億2500万年前の白亜紀前期、花びらをもつ被子植物が誕生する。
昆虫によって花粉を運び受精する被子植物は、効率よく繁殖し、早く成長する。一方、風によって花粉を飛ばし受精する裸子植物は、ゆっくりと生長し、繁殖も遅い。こうして裸子植物・シダ類は衰退していく。
花の誕生以来、恐竜の主食であった裸子植物・シダ類の数が減って、あちこちに分散するようになった。大量に餌を必要とした巨大恐竜たちにとって、食べ続けてきた植物の減少は大変な事態を意味したに違いない。
植生の変化と共に、恐竜たちも入れ代わっていく。それは高いところにある餌を食べるのに適した首の長い恐竜から、草原化した低い植物を食べるのに適した恐竜、すなわち、小型化し、あるいは頭を今のウシやサイのように地面に向けたスタイルの恐竜へと代わっていった。
第4章:そして哺乳類の時代が始まった
6500万年前のある日、巨大隕石が地球を襲った。恐竜たちは完全に姿を消した。
太陽の光がほとんど射さない「核の冬」の時代の到来。
私たちにつながる哺乳類はそれを乗り切った。そして長い時の後、大気中の塵が地上に落ち、太陽は再び地球を照らし始める。新世代の夜明けである。恐竜という支配者がいなくなった地球で、哺乳類の本格的な発展が始まった。
動物は孤立しては生きられない
植物の存在があったからこそ、太陽の光を利用して半永久的に食料を生産する葉緑体があればこそ、地球は3000万種を越える多彩な動物の生命を生み出し、今に至っている。
動かす騒がず、ただひっそりとたたずんでいるかのように見える植物たちは、実はとてもしたたかな道のりを歩んできた。真っ先に果たした上陸、乾燥との戦い。その前半生は一人で生きていく歴史であった。後半生最大のクライマックスは花の誕生であった。
植物はここで初めて、他の動物と取り引きすることを覚える。そして今の生態系につながる新たな昆虫や哺乳類を生みだし、一方では取引をしない恐竜を追いつめてゆくという厳しい一面も見せていく。
人類は、いつまで生きることが出来るのだろうか。私たち人類の前に、最も成功した動物として地上に君臨した恐竜。人類はあと1億6000万年もの間生存しなければ、彼らの歴史に追いつくことさえ出来ない。そしてそれは、現在の植物たち、そして、彼らが地球深くにため込んできた過去の遺産と共生できるかどうかにかかっているのだ。
現在、生きている裸子植物は500種、そして花を咲かせる被子植物は24万種を数える。
生命:40億年はるかな旅3(NHK出版)