第5集:大空への挑戦者

海から陸へ上がった生命は、地上を征服し、遂に飛翔に挑んだ。

爬虫類と鳥をつなぐミッシングリンクである始祖鳥の謎に迫り、羽毛、中空の骨、気嚢など、飛ぶためのメカニズムを検証する。

第1章:進化のミッシングリンク

始祖鳥は、鳥の祖先として1億5000万年前の地球に生きていたとされる生き物である。

1861年、ドイツの古生物学者ヘルマン・フォン・マイヤーによって発見された化石こそが、始祖鳥の化石であった。

化石は美しく伸びた長い尾を持ち、そこには爬虫類の特徴である椎骨が並びながら、鳥に似た扇状の尾羽が広がっている。前肢には3本の鋭い鉤爪があるものの、紛れもなく鳥の羽を持ち、翼を形成している。後肢は細く長く、先端は鳥の足に似ている。そして正面には叉骨(癒合鎖骨)があり、この形状はこの生物が確かに鳥であることを示している。

しかし、これで始祖鳥が爬虫類から鳥への進化途中の生物であると認められたわけではなかった。

そもそも鳥の化石は残りにくく、発見されにくいものである。飛行のための骨格は、もろく、うすく、軽い。そのため化石になりにくい。現在、始祖鳥と認められた化石標本はわずかに7体である。

第2章:この世の神秘なるもの翼

地球に生命が誕生して以来、最初に空を支配したのは脊椎動物は、鳥でなく、「翼竜」―翼を持った爬虫類であった。

中生代に入り登場した翼竜は、当初翼を広げても20pほどの小さな生物に過ぎなかったが、1億年以上もの時間をかけてしだいに巨大化してゆく。そして、ケツアルコアルスのように、翼長12メートルという想像を絶する大きさまでに達する。

中生代の地球は、温暖で気候の安定した時代であった。温暖で安定していた気候ならば、風も穏やかで上昇気流も容易に発生する。翼竜は現在のカモメのように、向かい風を受けて離陸し、上昇気流に乗って滑空飛行を得意した生物だった。中生代の環境に見事に適応し、大空を獲得したのである。

しかし、翼竜は鳥の祖先ではなかった。なぜなら始祖鳥が翼にしていたのは羽毛であるのに対し、翼竜はコウモリのような薄い皮膜を翼にしていたからである。

では、果たして鳥の祖先はなにか?実はそれを証明する決定的な材料は未だにない。そして鳥の起源説は大きく2つに分かれる。
つまり、恐竜を祖先とする考えと、恐竜の祖先である爬虫類を祖先とする考えである

第3章:恐竜は絶滅し、鳥は生き残った

6500万年前。巨大隕石の衝突によって地球環境に大変動が起きた。この時を境に、多くの生物が地球上から消え去ってしまった。多くの種類の陸上爬虫類、海に生きる軟体動物、原生動物、そして恐竜も全滅したのである。

そしてこの時、空を生きる場としていた翼竜と鳥は、決定的な運命の岐路を迎えた。翼竜は死に絶え、鳥は生き残った。

翼竜は、中生代の安定した環境に適応して巨大化していった。飛行滑空する生物のぎりぎりの大きさまで巨大化し、自力飛行するよりも風に乗り、滑空する方向に進化してきた。しかし、隕石衝突の嵐の中で、翼竜は飛ぶどころか離陸することさえできず、ただ死を待つばかりだったのかもしれない。

あまりに時代に適応してしまい、新たな環境に適応する可能性を失った生物に、生存の余地は残されていなかったのである。

では一方鳥はどうであったか。鳥たちにとっても環境の大変動による打撃は大きく、多くの種の鳥は死に絶えたが、生き残った種がいたのである。

鳥たちは、自由自在に自分の力で飛ぶという能力を開花させていた。哺乳類がこの時代を耐え忍んだとすれば、鳥は飛ぶ能力で積極的に生きる場を探し求め、この時代を生き抜いたに違いない。

生命:40億年はるかな旅3(NHK出版)