第8集:ヒトがサルと分かれた日

恐竜絶滅の地球で、ヒトの祖先であるサル類は豊富な食料に恵まれ、ライバルのいない森林の樹上で栄えた。

直立二足歩行への準備を着々と進めてゆき、環境が激変し森が消え始めたとき、草原へと歩みだした。こうして、ヒトへの進化は足から始まった。

第1章:立ち上がったサルたち

6500万年前、恐竜絶滅以後、哺乳類の時代が始まった。その中に、森林の木の上で進化した霊長類、いわゆるサルがいた。現在知られている最も古い霊長類は、プルガトリウスである。プルガトリウスは、外見はネズミのような形をしていた。

おそらく恐竜の絶滅後、プルガトリウスの子孫はアメリカからヨーロッパ、そしてアフリカに広がっていった。そして、このアフリカで、霊長類は多様な進化をすることになる。ネズミのようなサルではなく、本当のサルの誕生である。このようなサルの中のあるものから、チンパンジーやゴリラ、そして私たち人間を含む類人猿が進化したと考えられる。

森の中にいたはずの私たち人間の祖先は、現在プロコンスルという類人猿と考えられている。プロコンスルは体重10キログラムはほどの類人猿で、一日ほとんどの時間、木の上で果物などを食べて生活していたらしい。しかし、まだ二足歩行はではなかった。

1974年、アファール猿人(アウストラピテクス・アファレンシス)の化石が発見された。それはおよそ320万年前、プロコンスルから1000万年以上も後の時代のものであった。この化石は、ルージーと名付けられた。

アファール猿人は、地上を二足歩行していたと考えられている。しかし、樹上生活を完全に捨てたわけではなく、危険を避けるときや、夜寝るときは木の上に登っていただろうと考えられている。

人間の染色体の遺伝子とチンパンジーの遺伝子は99%が共通だと言われている。その遺伝子の違いはいつ頃生まれたのだろうか。およそ500万年前だろうと推定されている。

その頃、火山活動や地震を伴う地殻変動によってアフリカ大陸を南北に貫くグレート・リフト・バレー(アフリカ大地溝帯)が形成された。標高4000メートルの山脈が作られることによって、それまで大西洋から吹き込んでいた湿った風が東側に吹き込まなくなり、アフリカ東部にあった熱帯雨林を草原に変え、それが、人類の祖先が森の中の生活を捨てる一因ではないかと考えられている。

確かに、初期のヒト科の生物の化石は、グレート・リフト・バレーの周辺または東側からしか発見されていない。

こうして人類の祖先は、森を捨て草原へ出た頃に、二足歩行を始めたのだろう。一方、森に残ったサルの子孫が現在のチンパンジーではないかと考えられている。

第2章:新たな飛躍・草原に挑んだヒト

直立二足歩行により森を出た人類の祖先にとって、草原は楽園ではなかった。豊かな森と違い、食料が少ないばかりでなく、自らが他の猛獣の食料になってしまうこともあったに違いない。

しかし、森を完全に捨てて草原に進出したときに、人間は他のサルと明らかに違う道を歩み始めたのである。

直立二足歩行を達成することにより、人類の祖先は自由になった前肢を手として使い、道具の使用への道を開いていった。

アファール猿人は、二足歩行をしていたとはいうものの、多くの点でサル的な特徴を残していた。しかし、おそくともホモ・ハビリスの時代までには発達した手を獲得し、ホモ・エレクトスの時代までには、複雑な言語を操ることが可能な喉の構造を作り上げていた。

第3章:森を離れなかったサルたち

 グレート・リフト・バレーによってヒトと異なる運命をたどったチンパンジーたちは、熱帯雨林の豊富な食物によって、現在まで変わらぬ姿を保ってきた。

しかし、その生息環境も森林伐採などで脅かされる状況にある。生息密度が1平方キロあたり1から5頭という低さのため、広大な森を必要とする。

われわれの生活域の拡大はヒトと染色体を99%共有するという近しい存在さえ抹殺しようとしているのだ。

生命40億年はるかな旅5(NHK出版)