第3章:ウイルスが棲む三つの世界


ウイルスは私たちの知っている三つの世界に存在している。

1. 生物界:人間、植物、動物の世界である。ウイルスが最初に見つかったのはこの世界である。たとえばタバコの葉はウイルスが感染するし、私たちも同様である。

2. 人工の世界:コンピューター、ネットワーク、データ、プログラミングといった人工の世界である。この世界ではウイルスは発見されるのではない。作られたのである。プログラムされるのである。

3. 心・文化・考えの世界:この世界にパラダイム・シフトが起きつつある。改革と征服に基づいた文化進化の古いモデルから、ミーム学とマインド・ウイルスに基づいた新しいモデルへ移行しつつあるのだ。マインド・ウイルスは発見されることも生み出されることもある。自然に進化することもできるし、意図的に作り出されることもあるのである。

 

ウイルスとは何か


ウイルスは、自分の外にある複製装置を利用し自己増殖のために使う。ウイルスは私たちを自己複製工場として利用し、たいていの場合何か不要な物を残してゆくということである。

典型的な生物学的ウイルスの場合、それが指令を与える複製装置は攻撃の対象となる生物の細胞内にある。細胞は、普段はその装置をタンパク質を作ったり、核酸を複製したり、細胞分裂の準備にするために使っている。ウイルスはその細胞に侵入し、複製装置をだまして、通常の作業に加え、あるいはその代わりに、ウイルスの複製を行わせる。

そしてウイルスの使命は、できるだけ多くの複製を作ることにある。

 


私たちの心は、情報の複製に関しても、指令に従うということに関しても、細胞やコンピューターをしのいでいる。ウイルスの特徴は、侵入、複製、指令の発信、拡散である。私たちの心は、マインド・ウイルスの感染に理想的なほどに感受性が強いのである。

マインド・ウイルスは、私たちの行動に影響を及ぼす新しいミームを使って私たちをプログラムし、指令を発することができる。影響を受けた私たちの行動が色々な出来事を引き起こし、その出来事が未感染の人の心に接することでマインド・ウイルスが広まってゆく。

マインド・ウイルスは、自然発生する「文化ウイルス」と、人が意図的に作り出す「設計ウイルス」に分けられる。

設計ウイルスとは、ミームを人々に感染させるように注意深く作られている。そしてそのミームは、人々の間にその設計ウイルスを広めるよう人間に影響を与えてゆくのである。

二種類のマインド・ウイルスは同じ効果を持っている。知らず知らずのうちに、あなたが本来、人生で行うはずだったことから目をそらさせ、代わりにマインド・ウイルスの仕事を手伝わされてしまうのである。

ミーム学は、私たちの心、社会、文化の働き方に新しい見方を与えてくれる。文化の発展を互いに積み重なった一連の考えや発見としてとらえるのではなく、文化をミームで満たされたプールとして見たらどうだろう。

その中では、私たちの頭の中の考えが、マインド・ウイルスを含むさまざまな力によって、形を整えられて運ばれていく。こうしたウイルスは、どれほどすでに私たちの心の中に入っているのだろうか。それは害がある物なのか、それとも有益な物か。そのウイルスをコントロールすることは可能だろうか。