第4章:進化の本質


最も広い意味において、進化は単にものごとが時間とともに変化することを意味する。変化が起こるにつれ、環境にしがみつき自己複製することに長けているものはそれをどんどん押し進め、あまり得意でないものは止めてします。

環境にしがみついて自己複製するのが得意なものは、「レプリケーター」と呼ばれる。現在の世の中で最も興味深い二つのレプリケーターは、生物界のレプリケーターである遺伝子と、心の世界での基本レプリケーターであるミームである。

 

利己的な遺伝子


ドーキンスの利己的な遺伝子の理論は、そのすぐれた洞察により、進化の多くの厄介な問題や頭を悩ます細かな疑問点に答えを与えてくれる。これは、地球が宇宙の中心ではなかったという天文学上の発見に匹敵する理論である。

ドーキンスは、1976年に「ミーム」という言葉を初めて使ったのと同じ本で、利己的な遺伝子の理論を広めた。そのアイデアを最初に出版したのは、イギリスの生物学者ウィリアム・D・ハミルトンであった。1963年のことである。

ダーウィンの考えでは、適応性の最も高い生物が生き残り、自分たちと同じ様な生物を生み出してゆくことで進化が進行していく。自然淘汰による進化理論というダーウィンの素晴らしい洞察は、事実を非常によく説明しており、そのため長い間にわたって支持されてきた。しかし、ダーウィンでもDNAのことは知らなかった。

利己的な遺伝子の理論では、進化のスポットライトを適応性の高い個々の生物から適応性の高いDNAへと移動させた。結局の所、世代から世代へ情報を伝達するのはDNAである。

厳密にいえば生物種の個々の生き物は、それ自体の複製を作らない。親は子供達を正確なコピーとしてクローンするわけではない。そのかわり、親たちは、DNAのコピーを別の新しい個体内で複製させる。複製されるのを最も得意とするDNAがいちばんその数を増やし、各個体ではなく、そうしたDNAこそ適者生存の闘いに参加しているのである。

適者生存のゲームをし、何らかの手段で自分を複製させるようなDNAの部分を遺伝子と呼ぶ。進化が私たちの幸せではなく、遺伝子の幸せのために進行しているように見えるから、利己的な遺伝子という言葉が使われる。

遺伝子の観点から見れば、人間は遺伝子を生み出すための道具でしかない。



私たちの心、生活、文化は、DNA以外のあるものが進化することで影響を受けている。

数千年前までは、DNAはこの宇宙で情報を蓄積し複製するための最高の方法であった。だから、DNAに言及することなく、進化を語ることはできない。進化は情報の複製に関係して起こる。そして地球上のほとんどすべての情報は、DNAに蓄えられてきた。

しかし今日、私たちには情報を蓄えるもう一つの媒体がある。その媒体は、DNAよりもはるかに速く複製し、変異し、伝達してゆく。そうして効率の良い進化をするために、新しいレプリケーターが作られ、試験され、いっせいに広まってゆくといったことが、ほんの数日あるいは数時間で進んでしまう。DNAの場合はそれが数千年もかかるということと比較してほしい。

この新しい媒体は、私たちの日々の暮らしに対してDNAよりもずっと大切なものなので、それに比べれば遺伝子進化は存在しないに等しい。この新しい円熟した多産の進化の媒体の名前は?

それは心と呼ばれる。そして心の中で進化するレプリケーターは、「ミーム」と呼ばれる。