第7章:生き残りと恐怖


有史以前、生きるための最も有効な方法は、二つのものとうまくつき合うことであった。「食物」と「危険」である。このため私たちの脳の一部は、危険に対して注意深くなるように進化した。毎日の生活を生き抜く上で多くの恐怖と対面しなければならなかった時代に、このことは大きな助けになった。

今日、私たちが生きる上で日々の恐怖はほとんど取り除かれているが、それでも私たちの生活は危険という考えのミームに満ちあふれている。危険であればあるほど、そこに注意が向けられる。私たちがどれほど危険なことに関心を持ち、危険に関する産業がどれほど大きなものであるか考えてみてほしい。

 

恐れの進化


進化は安全を好む。このため私たちは必要以上に恐れを感じ、臆病になっている。なぜ進化は安全を好むのだろうか。答は簡単である。安全は生殖における大切な要素だからである。私たちが安全に暮らしていれば、おそらく子供を作ることができるだろう。安全でなければ子供が作れない。遺伝子進化は私たちの生活の質に興味はない。私たちの子供の数にだけ関心がある。

驚くべき遺伝子進化の飛躍により、生まれながらにして知っている危険だけでなく、生まれたあとの学習によって知る危険に対して、人間は自分の身を守ることができる。

 

恐怖とそれに関するもの


私たちは自分の身の危険にだけ注意を払っているのではない。私たちの遺伝子は、血のつながりのある人達にも入り込んでいる。そのため、自分を犠牲にすることなく血縁者を助けなければならない状況にも私たちは敏感である。これは利他主義と呼ばれる。

おもしろいことに、社会は個人が勝手気ままな行動をすると不機嫌な顔をするのに、利他主義にはほほえんでくれるようである。しかし、どちらの行動も最適な遺伝子が生き残る進化から生まれたものである。感情のボタンを押すミームで、利他主義に関連したものをいくつか占めそう。

1. 子供を助ける:あなたが自分の利己的遺伝子のためにできる最善のことは、生きることと子供を作ることに続いて、その遺伝子を共有するあなたの子供や親類の子供が生存し、さらに子孫を増やせるように助けてやることである。

2. 同類の人:似たような遺伝子を持ち、一緒に住み、互いに助け合う人々の集団は、生き残る可能性が高く、遺伝子のプールがよそ者によって薄められるのを防ぐ可能性も高い。

3. 人種差別:同類意識の裏側では、明らかに異なる遺伝子を持つ人々をやっつけ、排除しようとする働きがある。遺伝子プールの状態を保つ効果があるからだ。

4. エリート主義:他人より自分の方が色々な物を持ち、特権があり、優遇されていると信じて行動している人達は、物資が不足する時代でも、生き残って自分たちの遺伝子を伝えることがうまい。

子供を助ける、同類の人、人種差別、エリート主義は、どれも私たちの感情のボタンを押すミームである。危機や危険、あるいは恐怖にも基づくミームと伴に、これらのミームはマインド・ウイルスが私たちの注意を引いて防御システムの中に入り込むのに、最も利用されやすい。そして、危険は現実のものである必要もない。現実のものかもしれないとあなたに思わせれば良いのである。
 
現代の世界でうまくやっていくためには、ある程度自分の感情を無視し、心の中にある考え、習慣、信念で生きていく必要がある。しかし恐怖に対する反応は、いちばん無視しにくい本能の一つである。このため、恐怖に対する反応を呼び起こすミームや、それに連動して私たちの注意を喚起するミームは、とても効き目が強い。