第8章:私たちはいかにプログラムされているか


本章では、ミームと遺伝子的ボタンを使って、いかに人々を操り、あなたがやらせたいことを正確に行わせるかということを述べる。
 
あなたは、ミームの正体を知っている。ミームはあなたの心の中の考え、信念、態度であり、人々の心から心へ伝わってゆくことができる。私たち人間が、ミーム進化の媒体だということをあなたは知っている。進化が自然淘汰によってどのように作用するのかをあなたは知っている。それは適者生存という摂理である。
 
そしてあなたは、私たち自身の遺伝子進化が、いかにボタンを作り出したかを見てきた。ボタンとはすなわち、特定のこと、特に危険や食物、性などに対してとりわけ注意を払う傾向である。このボタンは、有史以前の大昔には、私たちが生き延びて子孫を残す手助けをしてくれていた。

ミームは、私たちの心の中に許可無く進入する。ミームは心のプログラミングの一部となり、私たちに気づかせないようにして生活に影響を及ぼす。

 

ミームへの感染


 新しいミームに感染するには三つのルートがある。

1.
条件づけ、あるいは反復によるものである。同じことを何度も繰り返し聞けば、それは私たちのプログラムの一部になる。

2.
認知的不協和というメカニズムによるものである。あることがよく分からないとき、あなたの心は何とかしてそれを理解しようとする。

3.
トロイの木馬のやり方で遺伝子ボタンを利用することである。私たちの性質として、私たちはとりわけ注意を払う特定のものがある。たとえば、危険に対する警告、子どもの泣き声、性的魅力などである。注意を引くために私たちのボタンを押し、他のミームも一緒に私たちの心の中に埋め込んでしまうような、そんなミーム集団に私たちは弱いのだ。

 

条件付け


反復によりプログラムするという「条件付け」は、あなたのボタンを押すことのないミームを獲得する一番簡単な方法である。
 
人は反復を通じて条件付けされ、現実を違ったように見せかける新しい識別ミームを獲得する。そしてその識別ミームを保ち続けるために、それを支持する発言を繰り返す。
 
心理学では、条件付けという言葉は、関連づけミームを植え付けることによく用いられる。パブロフの犬は、ベルが鳴ることと、おいしい食べ物とを関連づけるように条件付けされた。コカコーラの会社は、水着をつけた若者たちが同社の製品を飲みながら楽しい時を過ごしている様子をコマーシャルで見せている。「いい気持ち」と「コカ・コーラ」のブランド名とを関連づけるようにあなた方を条件付けているのである。
 
コマーシャルの反復は、あなたの心の中で関連づけミームを生み出し、それによりあなたはショッピングカートを押してソフトドリンクコーナーを通りかかったときに、コカ・コーラを買いたいという説明のできない衝動に駆られるのである。
 
ある行為に対して報酬を得るという状況の場合、オペラント条件づけ(戦略ミームを作り出すために反復を利用すること)が、あなたをどんなミームでプログラムしているのかということを考えた方がよい。そのミームは、はたしてあなたの人生の目的にとって有益なものだろうか。

 

認知的不協和


次のプログラミング手法は、わざと精神的圧力を加えて、それを解決するというものである。すなわち認知的不協和を利用するのだ。強引な押し売り商法は、どんな人にも嫌がられるにもかかわらず、なぜ存在するのだろうか。それはその商法のミームが広まるのに優れているからである。
 
強引な商法は、あなたを精神的に不愉快にさせることで進んでゆく。つまり認知的不協和を作り出すのである。
 
認知的不協和が作り出した精神的圧力を和らげるには、二つの方法がある。受け入れるか、はじき出すかだ。
 
認知的不協和により、人は何か価値のあるもの、何か忠誠心を示したくなるようなものを受け取ったと信じ込む。実際には、彼らを痛めつけていた人が、その痛めつける行為をやめただけなのである。


 

トロイの木馬


「トロイの木馬法」とは、まずあなたに一つのミームに対して注意を向けさせ、そしてそのミームと一緒に、他のミームをどっさりと送り込む方法である。
 
ミームを束ねて送り込むにはいろいろなメカニズムがある。たとえばトロイの木馬は、あなたの本能のボタンを利用し、それを押してあなたの注意を引きつけた上で、別の重要事項を潜り込ませるのである。

たとえば、宣伝界の常識「性は売れる」ということである。なぜ性は売れるのか。その理由は、性があなたの心のボタンを押して注意を引き、宣伝の中に一緒に含まれる他のミームもトロイの木馬のように持ち込んでしまうからである。

 

マインド・ウイルス


マインド・ウイルスには、三つのことが必要である。進入の手段、正確な複製法、他の人の心に伝達する方法の三つである。あなたが、これらのすべての条件を満たすような概念や教義を持っていたら、あんたはマインド・ウイルスを持っていることになる。
 
1.
侵入:ミームの侵入方法には、反復、認知的不協和、トロイの木馬の三つの手段があることを見てきた。マインド・ウイルスがあなたに入り込むときも、この三つのシナリオのうちどれかが選ばれることが多い。

2.
複製:侵入の次は複製である。マインド・ウイルスは、どうにかして変形や省略をすることなく正確に自己複製する必要がある。

3.
拡散:侵入、複製の後は拡散である。マインド・ウイルスを広めることは、ウイルスの侵入と表裏一体である。

 マインド・ウイルスは、以上のような反復、複製、拡散という機能をすべて含んだ文化要素である。マインド・ウイルスは自らを永久に存続させようとし、自己複製している。そして長いこと生き残り、手を伸ばしてつぎつぎと人を巻き込んでいく。
 
永続と拡散という特定の目的のために人間が設計した文化要素を「設計ウイルス」と呼ぶ。しかし、誰かがそうした権謀術数を考えつく以前には、マインド・ウイルスは自ら進化して強力な文化の一部となってきた。自らが進化して永続するようになった文化要素を「文化ウイルス」と呼ぶ。