第5章:子孫を絶やす50の方法

エドワード・ドッズがDSEの合成に成功したのと同じ1938年に、スイスの科学者パウル・ミュラーも、強力な効き目をもつ殺虫剤(DDT)を新たに開発した。この二つの合成化学物質は華々しいデビューを果たした。ドッズは性ホルモンの合成に成功し功績が認められてナイトの称号を授かり、ミュラーは1948年、ノーベル賞を受賞した。

こうした合成化学物質が登場してから12年後に、シュラキューズ大学の研究チームが、この二つの物質が化学構造上きわめて類似しているという事実を突き止めた。

DDTはあくまでも殺虫剤として開発されたが、若い雄鶏に投与すると、エストロゲンのような作用が現れたのである。つまり雄鶏がメス化したのだ。DDTを投与されたオスの精巣は、発育が著しく阻害され、オス特有の鶏冠や肉垂も現れなかった。

DDTやDSEは天然エストロゲンとは化学構造が全く違ったが、エストロゲン・レセプターと結合することにより類似ホルモン作用をしめすのだ。

これまでに確認されているところでは、何らかの形で内分泌系を攪乱する化学合成物質は少なくとも51種類ある。しかもこうした物質の多くは、自然環境の隅々にまで蔓延している。DSEのような類似エストロゲンもあれば、テストステロンや甲状腺代謝を阻害する物質もあるという。

こうしたホルモン作用攪乱物質には、多くの化学物質からなる大規模な化学族が含まれる。その内訳は、209種類のPCB、75種類のダイオキシン、135種類のフランであり、いずれについてもかなりのホルモン作用攪乱効果があることが確認されている。