ロンドン最初の日

 Yokoは、もう2年ほど、ロンドンで一人暮らしをしていた。
英語学校で勉強しているので、私はあちこち案内してもらおうなんて、思ってはいなかった。 でもやはり知人がいるということは、心強い。
彼女のフラットは3畳あるかないかだそうで、「泊めてあげたいけど、とっても無理」。
  もちろん、旅は一人で動くのが私のモットー。泊めてもらおうなど、ユメユメ思っていなかった。

 さて、飛行機は無事ヒースロー空港へ到着。
見渡した途端「ゲッ、何もかも英語だ」あたりまえだけど、これが正直な第一印象。
ひろーい空港を迷いながら、地下鉄の駅へ。早朝の5時にもかかわらず人の多いこと。

 私は、初めの2日だけ日本からホテルを予約してあった。地下鉄のアールズコート の近くで、1泊£85(約17000円)。
着いたことをホテルからYokoに電話しよつとしたが、かけてもかけてもつながらない。
ホテルの人にたずねると「多分、向こうのが故障しているのでしょう」だと。
え〜、Yokoは朝から私の電話をずっと待っててくれてんだよ。
でも、まぁしかたない、こうなりゃあきらめよう。なんとかなるさ。身支度して朝食をとり、 外へ出ることにする。

 手元の地図を見ながら、アルバートホールや、ケンジントン宮殿など ホテルの近くを歩く。
公園のベンチに座っていた女性に、そばへかけていいかとたずねるとにっこり "Sure"。
   彼女はアメリカのニュージャージーからで、明日帰るのだそう。アンティークが大好きで、 と買ったばかりの古い布の日傘を見せてくれた。
 「18世紀か、19世紀の貴婦人が、使ったのよ、きっと」と彼女。
 「私のアメリカの友人がね、こう言ってくれたの。"Life is short. So make the most of your life." って。そのことばが背を押してくれて、”えいっ”てこの旅に来たのよ」と言うと
彼女は、「ええ、それにこういう言い方もあるわよ。"Life is too short to drink bad wine."
 私たちは顔を見合わせて笑った。
家族はねこちゃんだけだとか。写真を撮らせてと言うと、 「ダメダメ、私なんて。こぉんなに太ってるから、 カメラが壊れちゃうわ」
ふ〜ん、英語にもそういう表現があるの。ちょっと愉快。彼女は私のカメラで私を写してくれた。
なんだか住所をたずねたいような気がしたけど、写真を撮ってあげたわけでもないし、、、。 1時間半もおしゃべりしていい時間を過ごして、心を残しながら別れた。

 私はいつも旅に出るとウェストポーチに小さなノートを入れてあって、何でもかんでもメモする ことにしていた。
なにしろ私の忘れっぽいことったら、母のおすみつきである。友達になった人とは、住所をメモしあって 手紙の交換をしたりするのも楽しみの一つだった。
この人にそれをメモしてもらわなくて、ちょっとだけ後悔したけど、そうしなくてよかったじゃん、 ということになったのも事実。

 さて、その夜、シャワーを浴びてテレビを見ながら、明日の予定を考えていたら、部屋の電話が鳴った。
Yokoだった。このホテルまで来ているという。
よかったぁ。2年ぶりくらいの再会だ。
 やっと、Yokoの娘さんからことづかったものや、頼まれていた野菜の種などを渡せてほっとする。
何を日本から持って来てほしい?とたずねたら、一ヶ月平均5000円(£25)で暮らしているという Yokoは、「野菜の種を少し」と答えた。
フラットの裏庭に蒔いて育てて、自炊のグリーンにするのだそう。なんと堅実な。