日本大使館


   出かける時 Mercia はドアまで出て来て、見送ってくれた。
「Take care.」とやさしい言葉。
Marble Arch の駅の近くの両替屋で、お金を換金。レートがよくないのは「センコクショーチノスケ」。 でも£180くらいを手にしたら、またまた、ホッとした。
昨日から今日にかけて、ふだん使いもしない『ノーミソ』のすみずみまで使いまくって、お掃除した感じ。 なんだか頭の中がすっきりしているんだわ。

地下鉄のGreen Park で下りて、階段を上る。 教えられた通り、右の方へ歩くと、通りの上の方に旗がいくつか見えた。
この通りは外国の大使館通りらしい。
ななめにひらめいているいくつかの旗の中に「日の丸」を見つけた時は、うれしかった。

  明治から昭和にかけての、侵略戦争のシンボルだった日の丸の旗を私は決して好きではなかったのに、 この旗が今、こんなに好ましくなつかしいとは!!
何だか何にでもうれしくなれる自分がいる。近づくと、だんだん大きくなる、どんどんうれしくなる。
とうとう日本大使館の前に来た。石段を上がって中に入ると、そこには日本語が主に書いてある。
これがまたなんとも言えない気持ち。
頭の中にもやのかかったような気分。
数人の日本人や、日本人でない人たちもあちこちに。


受け付けで並んで、昨日の盗難証明書を提出して、パスポートの紛失を証明し、新しいパスポートをもらう ための手続きをした。仕事をこなしているのは女性が2、3人。
思いなしか、日本での対応よりも無愛想、と感じたのは私のひがみ? 細かなことについての取り付くしまもないって雰囲気。

私の場合まだ、8日間滞在するので、仮の出国証でなく、新しいパスポートがもらえるのだそう。
(私のガイドブックには3週間かかると書いてあったけど、ね)
ハイ、ではこれに必要事項を書いて。お渡しする時には£60が必要です。
ウ〜ム、この出費“チョー”いたいが、しかたない。キープしておこう。
4、5日遅れの朝日新聞を読みながら待った。ロンドンへ来てここへ足を踏み入れるのもこれ、 なかなかないことだし、と思って向こうで新聞を読んでいる日本人の男性に頼んで、写真を撮ってもらった。
入ってくる人を見ていると、パスポートを紛失したんです、とか言ってここへ来る女子学生や旅行者が けっこういるのを見て、ちょっと安心する。
でも、あなたたちって、なくしたのはパスポートだけでしょ。
私はお金もカードも『ゼーンブ』なくしたんだからね、なんてここでいばることでもないんですけれども。

 名前を呼ばれる。
あさって2時に、パスポートが用意できているかどうか、電話して確認してから、取りに来てください、 とのこと。

   時計を見るとまだ、11時前。思いのほか、早く終わった。
グリーンパークを歩いて、 Buckingham 宮殿へ行こう。
スペインから来たという若い女性たちが、「宮殿の前にいたハンサムな警備員と並んでいる写真を 撮ってくれませんか」と私に頼んだ。
OK。じゃ、ついでに私も、ね。
その間、彼はしようのない人たちだね、という顔で腕ぐみして、でもちょっと微笑みながら、立っていた。 寒いくらいなのに半そでの制服を着た彼の“二の腕”の太いこと。私のフトモモくらいもあるよ。
広場を歩きながら、イェーイと、バンザイのかっこうをして写してもらって、しっかり 「おのぼりさん」も、した。とりあえずパスポートがもらえそうだ、という満足感もあった。
宮殿の裏手にあるクィーンズギャラリーを、ほんとはのぞいてみたかった。ラファエロのスケッチ画 をやっていたから。
 でも入場料が£8。
ムム、今の私にはとても高い。あきらめよう。代わりに絵葉書を数枚。

お昼になった。雨がぱらついてきたし、休もうと裏通りの cafe へ入る。
これまでランチは食べたいものを食べてきた。この日から、「一番安いものは?」と値段表からまず見る ようになった。
この日は£2,3(約460円)、でエッグサンドとコーヒーを頼み、会社員らしい女性たちと相席 させてもらった。
ちゃんと食べていなければ体が持たない。安くてもケッコおいしいじゃん、と思う自分が、少しも惨め だとは感じない。自分ながら時々感心する。
           あんたってトクな性分だよ。
その後、地下鉄に乗り、Baker Street へ行く。ここに Lost Property (拾得物一時預かり所)があるのだ。
99.9%、届いていない、とは思っている。しかし、やるべきことをやってから、すっぱりとあきらめる のがモットーだからとりあえず、来てみた。
         こうなりゃ、「ハナシノネタ」は多いほうが楽しいよ。
  中に入ると、若い大柄の女性係官が退屈そうに、一人座っていた。
無くした日付けを聞いて一応、ほんとに一応、という感じで大きなファイルを開いた。
ひょいとのぞき込んだらほとんど何も書かれては、いない。
  ありませんネ。(だと思いました)

 ここへは帰国する前日にも行ったが、なかった。それでほんとうにさっぱりした。
  地下鉄で帰りながら、「タカくくりの私にはちーとキツイ試練だった。ああ、『家族』と『仕事』と、 『愛と友情』、そして『ボランティアの活動とその仲間たち』 あ、忘れちゃいけない。 この健康な『体』、これだけあれば、もう他には何もいらないのだ」
  メッチャ欲張ってそう思ったら、途端に、鼻の奥の方がツンと痛くなった。
            今夜は、yoko が電話をくれるはずだ。