『魔女がもらったプレゼント』
トントン! はぁい! ドアを開けたら、赤鼻のトナカイ君が立っていた。 「あれ、どうしたの? 今夜はクリスマスイブじゃない。 こんな所に来ちゃってていいの?」 こんな所とは、北欧の森の中にある魔女の住み家、つまり私の家。 今頃、グリーンランドのサンタの国では、 サンタクロースが世界中の子ども達に配るプレゼントの仕分けで大忙しのはずだ。 「いや、プレゼントの仕分けはもう終わったんだ。 だけど、風邪気味だったサンタさんが無理をしてやってたものだから、 とうとうダウンしてしまって……。 それで君にお願いがある! 今夜までに、サンタさんを治してあげてほしいんだ!」 「きゃ、大変! わかった、今すぐ私をグリーンランドに連れて行ってちょうだい!」 私は戸棚から、緑と紫と銀色の瓶を取り出してスカートのポケットに入れ、 赤鼻くんの背中に乗って、グリーンランドのサンタさんのところへ駆けつけた。
「サンタさん、具合はいかが? わっ、サンタさんのお鼻も赤鼻君みたい!」 笑っちゃいけないとこだけど、花も恥じらう(?)18歳の魔女は、何を見ても笑いたい。 けれど、苦しそうなサンタさんのお顔を見て、すぐに笑いは引っ込んだ。 「待ってて、サンタさん。今、とっておきの薬を作るから!」 私は、サンタさんの枕元にあったコップを取り上げると、 さっきの3つの瓶を取り出し、慎重に薬を調合した。 そして、ステッキでコップをぽんと叩いた。 ぽわん! と、ピンク色の煙が上がって、 透明な、マスカットジュースみたいな薬ができあがった。 まわりでじっと見ていた赤鼻君や他のトナカイたちは、わぁ〜と歓声を上げた。 「はい、サンタさん。これを飲めばすぐに元気になるわ」 私はニッコリしてサンタさんをベッドから助け起こし、背中を支えながら、 ゆっくり薬を飲んでもらった。 すると……急にサンタさんは元気になり、それを通り越して陽気になり、 わははわははと笑い出してしまった。 「いけない! もしかしたら私、ワインを造ってしまったかもしれない!」 「え〜〜〜!!!」 トナカイたちが一斉にブーイングをした。 「ワインなんか飲んだら、そりに乗れないぞ!」 「そうだそうだ! 酔っぱらい運転になってしまう!」 「そんなそりを引くのなんか、僕はイヤだ!」 「僕だってイヤだ! 雪山や森に突っ込みかねないじゃないか!」 ああ、私って、どうしてこうそそっかしいのかしら……練習のときはバッチリなのに、 いざというときに必ず何かやらかしてしまう……。 にこにこ楽しそうに眠ってしまったサンタさんを見ながら、 私はしょんぼり、途方に暮れてしまった。 「仕方がない! こうなったら、君がサンタさんになってよ」 「え〜!? ちょ、ちょっと待って!」 慌てる私を尻目に、トナカイたちは、それはいい考えだ、と盛り上がってしまった。 「ほら、ここに予備の衣装がある。これを着てみて!」 「こんな派手な服を私が着るの? 魔女の服装はシックな黒と決まっているのよ」 「でも、今は魔女じゃなくてサンタクロースになるんだから」 「だって……ダサイ……」 「大丈夫! 誰も姿なんか見ない!」 「だったら私、このままでいいじゃない? そうだ、透明になってプレゼントだけ置いてくる! うん、これって名案♪」 「ダメだよ、そんなの。前例がないよ」 「あら、魔女がサンタクロースの代わりをするのだって前例がないでしょ?」 と、みんな、口を閉ざしてしまった。 「……もしかして、前にもこんなことがあったとか???」 「とにかく定番の格好をしてくれないと困る!」 私は無理矢理、サンタクロースの服を着せられてしまった。 「やぁ、案外、赤と白も似合うじゃないか。キュートだぜ」 赤鼻君がウィンクをする。 「あのさぁ……せめて、身体にフィットさせていいかなぁ」 「いや、もう時間がない! さ、早くそりに乗って! 僕たちも整列するから!」 鼻でぐいぐいと背中を押され、私はダブダブの服を引きずるようにしてそりに乗った。 とたんに、先頭の赤鼻君が地面を蹴って合図を送り、私を乗せたそりは、 雪のちらつく夜の空へと舞い上がった――
サンタさんが心を込めて用意していたプレゼントを配ってまわった。 それは結構心弾む、楽しいお仕事だった。 夜がしらじらと明ける頃、私を乗せたそりは、ようやくグリーンランドの、 サンタさんの元へと帰り着いた。
サンタさんはもうすっかり良くなっていて、戸口で私たちを待っていてくれた。 「君のおかげで、今回は本当に助かった。どうもありがとうね。 さぁ、これは君への特別なクリスマスプレゼントだよ」 私はもうくたくたで、早く自分の家の温かいベッドの中で寝たいと思っていた。 だから、サンタブレンドの美味しいコーヒーを飲んでいきなさい、というお誘いを 丁重にお断りして、赤鼻君に家まで送ってもらった。 そして、そのままベッドに倒れ込んで、ぐっすりと眠り込んでしまった――
森に住む私の友達(もちろん魔女)が、ニューイヤーの最初の光を浴びた 氷の枝を持って、遊びに来てくれたのだ。 私はその子に、代理を務めたことは秘密にしたまま、 サンタクロースからプレゼントをもらったことだけ話してみた。 私は特別なのよ、って、ちょっと自慢してみたかったんだもん。 だけど箱を開けてみて、ふたりともびっくり。 ふぅん、良かったねぇ、と言う友達も、笑いをこらえているのが見え見え。 だってね、何が入っていたと思う? 丁寧に包装された白い箱の中にあったのは、 私サイズの、サンタクロースの衣装なのよ? 「はぁ……もしかして、これからもまたお願いします、ってことかしら……」 私は一瞬、イブの晩の、子ども達の可愛らしい寝顔を思い出し、 それもいいかな、なんて思ったが、いや、もっともっと魔法を勉強して、 もう絶対に薬と間違えてワインなんかを造らないようにするのだ! と、輝く新年の氷の枝に誓った。
(おわり) |
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