その中には、舞ちゃんが書いたこんな短冊が混じっていました。
『おりひめ様の笹舟』
朝からしとしとと、雨が降り続いています。 「あ〜あ、せっかく笹飾りを作ったのになぁ〜!」
今夜は七夕です。 舞ちゃんのおうちでは、おとうさんが近くのやぶで切ってきてくれた笹竹に、 折り紙で作った折り鶴や、願い事を書いた短冊をつけて、軒下に飾っていたのでした。
その中には、舞ちゃんが書いたこんな短冊が混じっていました。
「そうねぇ、夜になったら止むといいわねぇ」 「天の川、見えるかなぁ」 「そうねぇ、雲の切れ間からでも見えるといいわねぇ」
ところが、夜になっても雨はいっこうに止みません。 それどころか、夕ご飯のころには、ダーッと音を立てて、まるで滝のような勢いで降り出しました。 「あ〜あ、これじゃ、お星様見えないな〜」 さっきから外ばかり気にしている舞ちゃんに向かって、おとうさんが、 「だって、梅雨ですから〜! 残念!」 と、おどけてみせました。 テレビに出ているお笑いの人のマネです。 舞ちゃんは、『下手だな〜』と思いながらも、 「アハハ〜」と笑ってあげました。 だって、おとうさんは、舞ちゃんを元気づけようとして、いってくれたのだもの。
食事もすんで、まいちゃんがいつものテレビアニメを見終わった頃、 パジャマをとりに二階へ上がっていったおかあさんが、大きな声で舞ちゃんを呼びました。 「舞〜! きてごらん! お星様が見えるわよ〜!」 「え〜? ほんと〜?」 舞ちゃんは、急いで二階へ上がっていきました。 「え? まだ雨、降ってるぞ?」 おとうさんも後ろからついてきます。 お部屋の入り口で、舞ちゃんとおとうさんは、 「わぁ〜!」 「お〜!」 と声を上げました。 暗い部屋の、正面のガラス窓いっぱいに、お星様が張り付いたようにきらめいています。 さっきたたきつけるように降っていた雨が、窓にたくさんの粒となって残り、 今、街灯の光を受けて、きらきらと星のように輝いているのでした。
「ほんとだ! お星様だ! お星様が、舞のとこまで来てくれた〜!」 舞ちゃんはぴょんぴょん飛び跳ねました。 その後で、ふっと考え込むようにすると、おかあさんに尋ねました。 「ねぇ、おかあさん。おりひめ様とひこぼし様は、雨が降っちゃうと会えないの?」
舞ちゃんは、幼稚園で、おりひめ星とひこ星が、一年に一度、七夕の夜にだけ、 天の川を渡って会うことができるのだと教わっていました。 「だから、七夕の夜が晴れるように、みんなでお飾りを作って祈ってあげましょうね」 幼稚園のみどり先生は、そう言って、みんなに折り紙を配ってくれたのでした。
おかあさんは、舞ちゃんの目の高さにしゃがみ込んで言いました。 「大丈夫よ、舞。雨が降っててもね、雲の上のお空はいつも晴れてるの。 だからね、おりひめ様とひこぼし様は、今夜きっと、会えるわよ。」 「よかったなぁ、舞! 「うん! よかった〜!」 舞ちゃんは、安心して、もう雨が降っていても気にならなくなりました。
窓ガラスの星空を、天の川が流れています。 その真ん中で、笹舟に乗ったおりひめ様とひこぼし様が、うれしそうに手を取り合っています。 そして部屋のベッドの中には、舞ちゃんの寝顔が……。
ガラス窓のまんなかに、笹の葉っぱが一枚くっついています。 「あ、これきっと、おりひめ様のお舟だ! ひこぼし様は、おりひめ様を自分のお舟に乗せて、送っていってあげたんだ!」 舞ちゃんは、雨の上がったお空を見上げて、にっこりしました。 (おわり)
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