雪解け(ゆきどけ)

 

春です。

雪の消えた地面から、チューリップの芽が三つ、勢いよく顔を出しました。

芽はすくすくと育ち、大きな葉を何枚も重ね着し、

やがてそのあいだから小さなつぼみが顔を覗かせました。

それを見つけた娘は、つぼみに名前を付けました。

 

「あなたは『ありがとう』、あなたは『ごめんなさい』、

 あなたは『だいじょうぶ?』ね」

 

毎朝水をやるたびに、娘はつぼみに呼びかけます。

「ありがとう、ごめんなさい、だいじょうぶ?」

 

つぼみは日ごとにふくらみ、色づいて、口元がちょこっと開いてきました。

その口が何かをいいたそうです。

もうちょっと。

もうちょっと。

 

一番最初に咲いたのは白いチューリップです。

「だいじょうぶ?」

娘が答えます。

「うん、わたしはだいじょうぶ」

 

二番目に咲いたのは黄色いチューリップです。

「ごめんなさい」

娘が答えます。

「ううん、わたしこそ、ごめんなさい」

 

最後に咲いたのは赤いチューリップです。

「ありがとう」

娘が答えます。

「わたしからもありがとう。これからもよろしくね」

 

「うん、これでいいわ!」

娘はニッコリ微笑むと、可愛らしいプランターにチューリップを植え替え、

きれいなラッピングをほどこして、友人の家に向かいました。

長いあいだ連絡を取っていなかった彼女への、サプライズ・プレゼントとして。

 

(おわり)

 

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