『雪姫』
すっかり葉の落ちてしまったケヤキの枝に腰を掛けて、
冬小僧はけららけらら笑っていました。
「ほら、見てみて!
あの子達、つむじ風と一緒に夢中になって遊んでいるよ。
おいらも仲間に入れてもらおうかなぁ」
足下の地面では、まるでドッジボールをしている小学生のように、
落ち葉たちが集団であちらこちらへと走り回ったり飛び跳ねたりしています。
「ほんと。楽しそうだわ。
あの子たちが土に還る前にあんなに楽しんでくれるのは嬉しい。
いずれ根っこの父さんがあの子たちをまた迎え入れてくれるだろうし、
私には来年また若葉を芽吹かせるという役目もあるし……」
ケヤキは、落ちた葉の痕に新しい命の気配を温かく感じていました。
「でもね……」
「でも?」
「あの子たちとはもうちょっとだけ繋がっていたかったかなぁ。
今年の別れはあまりにも突然だったもの」
「そうか……。
そうだよね、おいら、今年は新しい雪姫様を迎えなくちゃいけないから、
少し慌てちまって……。
ごめんよ、けやきのおかあさん。
だけど、新しい雪姫様は優しいお方だから、きっと良いようにしてくださるさ。
もうすぐそれがわかると思うよ」
冬小僧はそういって、おかあさんを元気づけるように
黒々としたケヤキの幹をポンポンと叩きました。
*
夜中降り続いた雪が、辺り一面を白く埋め尽くしました。
降り積もった雪は、ケヤキの樹と落葉たちとを慈しみ、
その懐にしっかりと抱きかかえてくれました。
「雪姫様、ありがとうございます。
あなたの降らせたこの雪が、舞い散ったあの子たちと私とを再び繋げてくれました。
来年の春まで、これで安心して眠りにつくことができます」
その声に答えるかのように、冬小僧のものとは違う優しい笑い声が、
雪衣をまとったケヤキの樹のすぐそばをふわりと通り過ぎていきました。
(おわり)