『雪オオカミ』
ゴォ〜 ゴォ〜。
風がうなり声を上げて、降り積もった雪の上を吹き過ぎます。
吹きちぎられた雪の固まりが、白い小鳥のように空を横切っていきます。
そんな夕暮れの一本道を、ひとりの少女が、小さな白い犬を連れて歩いていました。
その時、風の中に、涼やかな音色が響きました。
♪コン コン キーン コン コキーン コン コン コキーン・・・・
「何の音? どこから聞こえてくるのかしら」
少女は立ち止まって、辺りを見回しました。
けれども、場所を突き止めることが出来ません。
そのうちに不思議な音は止んでしまい、少女は、吹きつける風に促されるように、
再び歩き始めました。
と、また
♪コン コン キーン コン コキーン コン コン コキーン・・・
少女はもう一度立ち止まって、じっと耳を澄まし、音のする方を振り仰ぎました。
その視線の先にあったものは・・・
――道の脇に、吹き流しを掲げるための、背の高いポールが一本立っていました。
そこに絡みついているワイヤーが、烈風に煽られて、金属製のポールのあちこちにぶつかり、
まるでベルリラのような、高く、澄んだ音を奏でていたのでした。
♪コン コン キーン コン コキーン コン コン コキーン・・・
少女はにっこりしました。
「風の妖精達が遊んでる。早く帰って、妹達に知らせてあげよう」
少女はそうつぶやくと、微笑みを顔に残したまま、
横でおとなしく待っていた小犬と一緒に歩き出しました。
初めはゆっくりと、しかしその足取りがだんだん速くなっていったかと思うと、
突然、少女の姿が消えました。
同時に、隣りにいた小犬の姿が、白い、大きな雪狼に変わり、
パッと虚空を飛んだかと思うと、たちまち、まわりの景色に紛れて
見えなくなってしまいました。