☆この作品は ポプラ社主催”作品市場.com” に 公開していました。
(2005年1月のアワードに於いてジャンル別金賞を受賞しました♪)
(2005年2月のアワードに於いてジャンル別銀賞を受賞しました♪)
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こんな夜更けにどうしたの?
眠れないの?
そんなときには、お部屋の窓を大きく開けて、
あの星空を見上げてごらんなさい。
視界いっぱいに広がってチカチカ瞬く星達が、
あちらこちらで集めてきたお話を、
そっとあなたに聞かせてくれることでしょう。
海のお話「ねぇママ、あの子、いつもあそこに座ってない?」 目の前で珈琲を飲んでいた若い男性が、カウンターの中の私に向かってそう声をかけた。 「ああ、、、あの子ね。うん、そうみたいね」 私はそれだけ答えると、膝に広げていた本に視線を落とし、 それ以上知りません、聞いても答えません、というポーズを取った。 *** ここは海岸通りの小さな小さなコーヒーショップ。 さすがに夏は海水浴客やサーファーでいっぱいになったりするけれど、 シーズンも過ぎた今頃は常連のお客様くらいしか来ないし、私のそんな態度も許してくれる。 それでもときどきふらっと新しいお客様がみえることもあって、そう、あの時も・・・ *** 浜辺に人影がなくなり、海が本来の色を取り戻した夏の終わりのある日。 ひとりのほっそりとした女の子がおずおずと店に入ってきて、 カウンターの隅の窓際の、あの海が一番よく見渡せる所に座ってぼーっとしてた。 「いらっしゃいませ。ご注文は?」と、お水とタオルを差し出しながら尋ねると、 びっくりしたような大きな目でじっと私を見つめてから、 「珈琲ください。。」と小さな声でつぶやいた。 *** そうしてその日から毎日、あの子はこの店にやってきて、 いつも同じ窓際の席に座り、珈琲を注文し、 夕暮れ時まで黙って海を眺めていては、「ありがとう」と言って帰って行った。 そのうち少しずつ打ち解けて、 言葉を交わすようになった彼女が話してくれたところによれば、 どうやら海の向こうへ行ってしまった恋人の帰りをずぅっと待っているらしい。 「いつ頃帰ってくるの?」なんて野暮な質問などしたくない私は、「そうなの」と微笑むと、 ここには気の済むまでいてくれたらいいこと、ただし珈琲は私の奢りだと伝え、 遠慮するあの子に、「だって、うちの看板娘だもの」とウィンクをした。 *** それから何ヶ月かが過ぎ、 もうすっかり彼女がこの店の風景にとけ込んでしまったようになったある日のこと。 前日まで降っていた名残りの雪が砂浜をうっすらと覆い、 それでも海は春を思わせる青い色に輝き始めた朝に、 波の彼方から何かがこちらにやってくる気配がした。 ふと波打ち際に目をやると、 あの子が裸足で立っていて、そのまま海の中へと進んで行く。 思わず店から走り出て止めようとする間もなく、 彼女の足はまばゆい金色の尾びれとなって水を打ち、 美しい人魚の姿となって、ぐんぐん沖に向かって泳ぎ始めた。 そしてその先に待っていた、 艶やかな銀色の肌をした一頭のたくましいイルカに飛びつくと、 嬉しそうにこちらを振り返り、何度も何度もお辞儀をして、 そのまま波間深くに消えていってしまったのだった・・・ * * * あれから何年も経つけれど、 今でも夏の終わる頃になると、人気のなくなった浜に立ち、 海の向こうを眺めては、あの子とあの子のイルカの幸せを祈っている。 もう離ればなれになんかなっちゃダメよ、と。 でも本当は私、もう一度、あの子に会いたいのかもしれない。
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森のお話足下は色とりどりの落ち葉に覆われていた。 リスたちは、もうすぐやってくる寒い冬に備えて、木の実探しに熱中している。 森の中を走り回って集めたたくさんのドングリを、 よく伸びるほほぶくろ一杯に詰めて、巣に持ち帰ったり、 あるいは来年新しい命が芽吹くように土の中に埋めたりと、秋のリスたちは大忙しだ。 そんな中へひょっこり迷い込んできた、青い帽子を被った少女を見ても、 なぜか彼らは逃げだそうとしなかった。 そればかりか、一匹のリスがすばやく彼女の肩に駆け上り、なにやら話しかけているようだ。 毎年避暑のために都会から両親と共にやってくるこの少女は、 夏の間はいつもこの森でリスたちと遊び、そうしてこの山が雪で閉ざされる前に、 再び都会へと帰っていくのだった。 「今年も楽しかったね」 「来年もまた会いたいね」 「僕は来年は、もっとずっと大きくなってるよ」 「あら、私だって、もっと・・・美人になってる!」 ひとしきりリスたちと戯れた少女は、 父親が遠慮がちに鳴らすクラクションに促されて、名残惜しそうにこの森を後にした。 そして、そんな少女を見送ったあともリスたちは、 短い秋の日が暮れる前に少しでも多くの木の実を収穫しようと、 あちらへこちらへ忙しく跳び回るのだった。 西の空はもうあかね色。
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雪のお話アタシは魔女。そんなこと、彼には内緒だった。 だって、もしもあなたの彼女が、魔法で何にでも変身できると知ったら、 きっとこわくなって逃げ出したくなっちゃうでしょう? でも、結局彼にばれちゃった。 で、どうしたかっていうとね、彼は突然旅に出ると言っていなくなっちゃった。 もちろんアタシは捜したわ。 アタシ達二人で飼っていた黒猫を連れて、箒に乗って、世界中飛び回った。 それなのに、どの街へ行っても彼は見つからない。 最初は逃げ出した彼に腹を立てていたんだけれど、だんだん悲しくなって来て、 彼との楽しかった思い出なんかがいっぱい浮かんできちゃって・・・ 彼恋しさに胸が一杯になって、泣きながら飛んでいたらね、 ふわふわと何かがアタシにやさしく降りかかってくるの。 そう、それは今年最初の雪の花びら達だった。 彼を捜して飛び立ったのは夏だったのに、いつの間にか冬になっていたんだわ。 そんな雪の舞う中で、アタシは自分のことを考えてみた。 彼はね、アタシが魔女だから逃げ出したわけじゃなかったかも知れない。 そうじゃなくて、アタシが彼のことを信用してなかったことが許せなかったのかも知れない。 そんなことを考えながら飛んでいたらね、もうすぐ彼に会えそうな気がしてきたの。 彼に会ったら、そのことをまず謝ろう。 そして、仲直りして、今度はふたりで箒に乗って、元の街に戻ろう。 空から落ちてくるたくさんの粉雪なんか、ちっとも寒くないよ。
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いかがでした?
星達が拾ったこんなお話。
あら、もう気持ちよさそうに寝ちゃってる。
それではぐっすりおやすみなさい。
眠れぬ夜にまた会いましょう。
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(リンダ作 星降る夜のフェアリーテイルズ その1 おわり)