クリスマス・イブに
その女の子の夢は、大好きな男の子のバイクの後ろに乗せてもらうことでした。
けれども今のところ、その夢を叶えてくれるような友達がいません。
街や通学路で、仲良く二人乗りしているバイクを見かけるたびに、
「いつか私も!」と、密かに誓う毎日でした。
そんな女の子に、好きな男の子ができました。
それは、クリスマスが近づいている季節のことでした。
女の子は、その子がバイクに乗れればいいのになぁ、と思いました。
そうしたら、後ろに乗せてもらって……
女の子は男の子に、革でできたバイク用の、赤い手袋を贈ることを思いつきました。
いつかこれをはめて、私をバイクに乗せてね!」という思いを込めて。
そして、クリスマス・イブ。
女の子は、駅前にライトアップされた、大きなクリスマスツリーの前で、
男の子を待っていました。
「やぁ、ごめん。少し遅れちゃった」
「ううん、わたしも今来たところだから。あのね、これ、あなたにクリスマスプレゼント!」
女の子は少しはにかみながら、用意してきたプレゼントを男の子に渡しました。
「ありがとう! 何だろう? 開けてみていい?」
赤と緑のクリスマスカラーできれいにラッピングされた、小さな包み。
それを開いた男の子は、目を輝かせて言いました。
「わぉ、真っ赤な手袋だ! なんてキュートな色だろう。まるでポインセチアみたいだ。
サンキュ! じゃ、今度は僕から君へプレゼントする番だね。
ちょっとこっちへ来てみて」
男の子は女の子を駐輪場の方へと連れて行きました。
そこに置いてあったのは、手袋と同じような赤い色をした、ピカピカの
250CCバイクです。
女の子は目を見張りました。
「ステキ! これ、あなたの?」
「うん、気に入ってくれた?
さぁ、早くここに乗って!」
夢見心地のまま、女の子は、男の子のバイクの後ろのシートに座りました。
――赤い手袋に赤いバイク…。なんだか彼、サンタクロースみたい。
え? もしかしたら!
いつの間にか雪が降り出していました。
「しっかりつかまってるんだよ!」
男の子がアクセルをふかすと、真っ赤なバイクは、
ブルルンと軽やかなエンジン音を響かせて、勢いよく空へ飛び上がりました。
ちらちらと雪が降る中を、二人を乗せたバイクはぐんぐんスピードを上げていきます。
目の下に広がるのは、クリスマスのイルミネーションに彩られて輝く、美しい街並み。
けれども、男の子の背中にぴったりと張りついている女の子に見えていたものは、
降りしきる白い雪と、ハンドルを握りしめる男の子の、赤い手袋だけでした。
(おわり)
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