お天気
の 神様
雲の上に据えられたコントロールパネルの前に座り、
熱心に天候の操作をしていたお天気の神様は、ふと、下界をのぞいてみた。
地上では、今日、五月の三日から五日まで、三連休だという。
こどもの日を含めたこのお休みの前後を、人間達はゴールデンウィークと呼んで、
あちこちに出かけるのを楽しみにしているらしい。
このところ疲れ気味だったお天気の神様は、たまには自主休暇を取ろうと思い、
天候のコントローラーを“晴れ”に固定して、地上に降りていった。
手近な山に降り立ったお天気の神様は、草原の真ん中に大の字になっている、
スーツ姿の男性を見つけ、自分もまた同じようなスタイルに変身すると、
彼に近づき、声を掛けた。
「こんにちは」
草の上に寝ころんで、ぼーっと空を見上げていた男性は、
眩しそうな目をお天気の神様に向けた。
「やぁ、こんにちは。あなたも私とご同業ですか」
あいまいに微笑み返すお天気の神様。
男性は続けた。
「もう、イヤになってしまいますよね。毎日毎日仕事に追われて、残業ばかり。
今日だって、本当は仕事があったのですが、全部キャンセルして、
こんな山の中へ来てしまいました。でも思い切ってそうして良かった。
こうやって、何もしないで寝そべっていると、
日頃、いかに働き過ぎで、何も見ず、何も聞いていないのかがよくわかりますよ」
「ああ、そんなもんですか」
「そうですよ。
いかがですか。よろしかったらあなたも、私の隣りに寝そべってごらんになりませんか」
「よろしいんですか? それじゃあ、お言葉に甘えて……よっこらしょ」
お天気の神様は、男性と並ぶようにして、草の上に横になり、手足を伸ばした。
――ああ、良い気持ちだ……。
青く晴れ渡った空を、白い雲がゆっくりと形を変えながら流れてゆく。
耳元で草がさやぎ、どこか遠くから鳥の声が聞こえてくる。
うとうととまどろみかけていたお天気の神様の横で、男性がひとり言のようにつぶやいた。
「それにしても、今度のゴールデンウィークは晴天続きですね。
おかげで、心ゆくまでのんびりできますよ。
もしかしたら、お天気の神様が、毎日の天候を考えるのが面倒くさくなって、
ずっと晴れにしたまま、どこかで休日を楽しんでいるじゃあないかなぁ。
あれ? 急にくしゃみなんかして……どうかされました?」
(おわり)
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