ンチはで♪

 

「あ〜あ、こんなに良い天気なのに……」

私は、窓の外に向けていた視線をパソコンにもどし、ため息をついた。

「オフィスでデスクワークだなんて、なんてもったいない……。

そうだ! せめて今日のお昼は公園で食べよう。ほんとは海に行きたいところだけど」

 

 

待ちに待った昼休み。

急ぎの仕事が入って出遅れてしまったけれど。

手作りのお弁当を持って、会社近くの公園に行き、清涼飲料水の自販機の前に立った。

百二十円を入れて、「コーラ」と書かれたボタンを押す。

ガッタンと音がして出てきたそれは、しかし、見慣れたあの赤ではなく、

見たことのない、美しい海の色をしていた。

 

「え? 何、これ。昼休み限定品、って書いてある……。ま、いいか。とにかく、お昼にしよう」

細かいことにはこだわらない。

プルトップをくぃっと引き、ごくりと一口、コーラを飲んだ――。

 

 

太陽の照りつける広い砂浜に、私はひとりで立っていた。

目の前に広がるエメラルドグリーンの海。おだやかに打ち寄せる白い波。

潮の香りに満ちた風。

「何? 何? 何?」

はてなマークに囲まれていた怜は、そのうち愉快になってきた。

「いいじゃん、いいじゃん! 行きたかった海が目の前にある! 愉しまなくっちゃね!」

サンダルを脱ぎ捨て、スカートの裾をたくし上げると、ばしゃばしゃと海の中へ入っていった。

 

 

遠浅の海は、ン十メートル進んでも、まだ膝のあたりまでしか水が来ない。

足元の砂に映る波の影は、網目模様になってゆらゆらとゆらめき、

その中を、青い小さな魚たちが群れになって泳いでいる。

「私も一緒に泳ぎたい!」

私は彼らに近づこうと、透明な水の中にからだを沈めた……。

 

 

――気が付くと、私は、元の公園のベンチに座っていた。

風に乗って、午後一時を知らせる職場のチャイムが聞こえてくる。

コーラは空だった。

「残念! もうちょっとで、あの魚たちと一緒に泳げるとこだったのに……。

昼休み限定品って、昼休みの間だけ、あの体験をできるってことだったのね。

よし、だったら明日は、昼休み一番にコーラを買いにこよう! 

ランチはもちろん、あの海で♪」

 

(おわり)