「あ〜あ、こんなに良い天気なのに……」
私は、窓の外に向けていた視線をパソコンにもどし、ため息をついた。
「オフィスでデスクワークだなんて、なんてもったいない……。
そうだ! せめて今日のお昼は公園で食べよう。ほんとは海に行きたいところだけど」
*
待ちに待った昼休み。
急ぎの仕事が入って出遅れてしまったけれど。
手作りのお弁当を持って、会社近くの公園に行き、清涼飲料水の自販機の前に立った。
百二十円を入れて、「コーラ」と書かれたボタンを押す。
ガッタンと音がして出てきたそれは、しかし、見慣れたあの赤ではなく、
見たことのない、美しい海の色をしていた。
「え? 何、これ。昼休み限定品、って書いてある……。ま、いいか。とにかく、お昼にしよう」
細かいことにはこだわらない。
プルトップをくぃっと引き、ごくりと一口、コーラを飲んだ――。
*
太陽の照りつける広い砂浜に、私はひとりで立っていた。
目の前に広がるエメラルドグリーンの海。おだやかに打ち寄せる白い波。
潮の香りに満ちた風。
「何? 何? 何?」
はてなマークに囲まれていた怜は、そのうち愉快になってきた。
「いいじゃん、いいじゃん! 行きたかった海が目の前にある! 愉しまなくっちゃね!」
サンダルを脱ぎ捨て、スカートの裾をたくし上げると、ばしゃばしゃと海の中へ入っていった。
*
遠浅の海は、ン十メートル進んでも、まだ膝のあたりまでしか水が来ない。
足元の砂に映る波の影は、網目模様になってゆらゆらとゆらめき、
その中を、青い小さな魚たちが群れになって泳いでいる。
「私も一緒に泳ぎたい!」
私は彼らに近づこうと、透明な水の中にからだを沈めた……。
*
――気が付くと、私は、元の公園のベンチに座っていた。
風に乗って、午後一時を知らせる職場のチャイムが聞こえてくる。
コーラは空だった。
「残念! もうちょっとで、あの魚たちと一緒に泳げるとこだったのに……。
昼休み限定品って、昼休みの間だけ、あの体験をできるってことだったのね。
よし、だったら明日は、昼休み一番にコーラを買いにこよう!
ランチはもちろん、あの海で♪」