使

 

「あ〜、遅くなっちゃった! にしても、飲むのに夢中で誰も送ってくれないなんて!」

 

仲間とのコンパを途中で抜け出した圭は、終バスのなくなった夜の道を、

家に向かって急いでいた。

 

閑静な住宅街、と言えば聞こえがよいけれど、まわりはほとんど畑ばかり。

街灯が整備されていることと、見晴らしの良いことが、防犯面での救いかも――。

 

冷たい夜気にコートの襟を立て、コツコツとブーツの音を響かせながら歩いていると、

傍らの草むらから、突然、白い仔猫が現れた。

一緒に遊んで欲しいのか、つかず離れず、圭の足元を行ったり来たりする。

 

「何々? どうしたの?」

 

しゃがみ込んだ圭の頭上を、何かが、ひゅーっと音を立てて飛んでいった。

と同時に、畑の方から誰かが慌てて飛んできた。

 

「すみませ〜ん! 誰もいないと思ってアーチェリーの練習をしてました。

当たりませんでしたか?」

 

――当たりませんでしたか、ですって? 真夜中とはいえ、矢を放つなんて、なんて非常識な!

 

ムッと来て顔を上げた圭の目の前に、とても実直そうな青年が立っていた。

ドキン、とときめく圭の胸。

 

「いえ、あの、命中したみたいです……」

 

立ち上がった圭を見て、頬を赤らめる青年。

 

二人は見つめ合ったまま、じっと動かない。

その隙に、白い仔猫は天使の姿に戻って飛び上がり、

街灯の上にいたもう一人の天使にVサインを出して、

彼の、キューピット試験合格を祝った。

 

(おわり)