ミスリアスイン

 

 

――必死で何かから逃げていた。

しかし、隠れ場所を求めて飛び込んだ部屋には、

薄暗がりにぽつんとひとつ、ワインが置かれてあるだけだった。

 

「逃れたい!」

その一心で、僕はそのワインボトルに飛び込んだ!!

                              
 
・・・すぅ〜っと吸い込まれ、

芳醇なワインと同化して、 

身も、心も、次第に浄化されていく。
 
 
そうしてすっきりした僕は、コルクを伝わって浮かび上がり 

            

ふたたび、外の世界に飛び出した。

僕を追っているものの気配は、既に消えていた・・・。

     

翌朝、僕は大きなクシャミとともに目を覚ました。

何のことはない、眠れない夜の慰みにと読んでいたミステリーの上に突っ伏して、

うたた寝をしていたのだった。

 

表に出ると、雪の上に、新聞屋さんの通った足跡に混じって、

小さな生き物の足跡が残されている。

     

空を見上げれば、ぽっかりと浮かぶ白い雲。

     

ああ、昨日の猫があそこにいる。

何の根拠もないけれど、僕はそう確信した。
                             

(おわり)