魔女 ひと

 

ぎっくり腰になった。

朝、顔を洗っていたら突然。

だから、久しぶりに降った雨をこうしてベッドに横たわりながら見ている。

うん、バタバタという雨音、結構気持ちが良いなぁ。

寝返りが打てないのがきついけど。

そういえば、最近ちょっと仕事で無理してたかもしれない。

大好きな”お話”を考える余裕もないくらい……。

「そうよ」

「誰!?」

「私よ。わ・た・し!」

きょろきょろと視線をさまよわせると、いつの間にか

私の枕元に、赤い靴をはいた魔女がいた。

「最近ちっとも私を呼んでくれないんだもの。

ちょっとね、腰をツン! って、これで突いてあげたのよ」

赤い靴をはいた魔女は、手にした箒を得意げに見せびらかせた。

「ごめんなさい。だって、仕事が忙しかったんだもの……」

「わかってるわよ。

でもね、いい加減に休みを取らないと本当に病気になっちゃうところだったのよ。

だから、私が、強制的に休めるようにしてあげたの。

ありがたいと思いなさい」

「そうなの? でも、ちょっと荒療治すぎない?

涙が出るほど痛かったわよ……」

「うふふ。だいじょうぶよ。三日もじっとしてれば治るわ」

「三日も動けないなんて、辛いよ〜!」

私は、ついつい魔女に泣き言を言ってしまった。

すると彼女は、ツンっと上を向いて

「私はもっともっと長い間、あなたの中でじぃっとしていたわ。

もう限界!

さぁ、休んでいる間に、私が登場するお話を考えなさい!

じゃあ、よろしくね!」

そう言って魔女は、煙のように消えてしまい、後には、

お見舞いにくれたらしいスウィーツの甘い香りが漂っていた――


 


赤い靴の魔女が言ったとおり、

腰の痛みは三日もすると嘘のように消えてなくなり、

私はこうしてパソコンに向かっているのだけど――

こんな登場のさせ仕方で、あの魔女が満足してくれるかしらって心配。

でも、とりあえず、仕事のしすぎには気をつけなくっちゃね。

 

(おわり)

 

注意: これは、お見舞いとして書いたお話です。

     幸い私自身には、ぎっくり腰の経験はありません。

     できることなら、無理をしないように十分に気をつけて、

     このまま無経験のまま過ごしたいと思います。

     今、腰を痛められている方は、どうぞお大事に。

     安静になさって、早く良くなって下さいね。