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初
* 音
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☆。.
勉強疲れの頭を冷やそうと窓を開けたら、甘い香りが漂ってきた。
あれ? 桜、かな? 今年はやけに早いような・・・。
☆。:'・.
私が生まれた年に両親が植えたという彼岸桜は、
何年経っても葉ばかりが繁り、今年も花をつけなかったらもう切ってしまおうか、
なんて話が出た年に、慌てて、いや、ようやくいくつか花を咲かせて見せてくれた。
そして翌年から、春のお彼岸が近づくのを待ちかねては枝一杯に花を溢れさせ、
そのむせるような甘い香りを庭中にまき散らして、我が世の春を謳歌している。けれど、今はまだ2月。
春一番もまだ吹いていないというのに、ちょっと早過ぎない?
.。.:*:・'゜☆
私は部屋の灯りを消し、星明かりを頼りに桜の木の観察を始めた。
花・・・咲いてるようには見えないけど・・・
でも何だがくすくすと小さな笑い声が聞こえてくる。
誰? 誰か木の影に隠れてるの?
あ、今、何かが、枝のところで確かに動いた! それも二つ!
暗さにだんだん慣れてきた目に見えたのは、
なんと小鳥くらいの大きさの小さな小さな女の子がふたり、
桜の木の枝から枝へ移っては並んで座り、
楽しそうにひそひそと話をしている姿だった。
゜'・:*:.。.:*:・'゜☆★゜'・:*:.。
私は固まった。目を擦った。そして必死で頭を巡らした。
こんなことあるわけないよね。妖精なんか今まで一度も見えたことないもん。
私、勉強しすぎて目がおかしくなっちゃったのかな?
ここのところ毎晩2時頃まで頑張ってたもんね。
ああ、こんなことなら去年のうちに推薦入試で決めておくんだった。。もう寝よ!
くすくす笑いはまだ耳に聞こえていたけれど、私は急いで窓を閉め、
するりとベッドに潜り込んだ。
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次の日の朝。
私は久しぶりに鳥の鳴く声で目を覚ました。
耳を澄ますと、林の方から、
他の鳥のさえずりに混じってホーホケキョーという声も聞こえてくる。
春を告げるうぐいすの初音だ。
昨夜のことを思い出した私は、桜の木の所まで行ってみた。
もちろんそこに女の子なんかいなかった。
けれども蕾はふっくらとふくらんで、今にも咲きそうな気配。
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それからまもなく、私は本命校を受験した。
その日の午前中に春一番の強い南風が吹いた。
私の桜の花が、咲いた。
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