春
に降る
雨
――男子ってわけわかんない。
今日は卒業文集作りのために、クラスの有志が残って作業をしていた。
帰る頃になって、突然降り出した雨。
玄関でユウナと空を見上げていたら、ちょうどワタルが傘を持って出てきた。
「ワタル、あなた、ユウナと一緒の方向でしょう? 送っていってあげなさいよ」
私が気を利かせてそう言ってあげたのに。
ワタルは急に怒り出して、
「なんでオレが送って行かなくちゃいけないんだよ。お前が送っていけばいいじゃないか」
だって。
「私はユウナとは反対方向だもの」
「そんなの関係ないね。オレはいやだ!」
ワタルはそう言い残すと、さっさと一人で傘を差して帰って行っちゃった。
まったく、どうしちゃったんだろう、ワタル。
いつもはもっとやさしいのに。
ユウナは私と違って美人だし、頭も性格もいいし、物静かだし。
クラスの男子全員の憧れの的だし。
卒業前のこのチャンス、絶対喜んでくれると思ったのになぁ。
ああ、男子ってわかんない!
――女子ってわけわかんねぇ。
なんでオレがユウナと相合い傘で帰らなくちゃいけないんだよ。
あ、いや、そうじゃない。
なんで、アイツに言われてそうしなくちゃいけないんだよ。
かっこわるいじゃないかよ、そんなの。
まるでこういう時を狙ってたみたいに、みんなに思われちゃうじゃないかよ。
あれ? オレは狙ってたのか? そうなのか?
ちがうよな。
オレは、ただ用意がいいだけだよな。
っていうか、たまたまこの間、傘を置き忘れて帰ったってだけの話なんだよな。
・・・何を言い訳してるんだ、オレは。
そうじゃないって。
ホントはオレ、ユウナとじゃなくて、アイツと一緒に帰りたかったんだ。
チャンスだったんだよ。
もしもアイツがひとりだったら。
いつもの明るい調子で、
「あ、ワタル、傘持ってるんだ。じゃ、入れてってよ」
なんて言って、さっとオレの傘に入ってきてくれてたら。
「なんだよ、方向違うじゃないか」
とか言いながら、イヤだけどしょうがない、って顔をして、一緒に帰れたのにさ・・・。
もうすぐ卒業なのに。
オレはいつもアイツを見てたのに。
オレが、綺麗だけど冷たそうな、氷の花みたいなユウナより、
クレヨンで描いたチューリップの花みたいに、
スコンッと元気なアイツのことが好きだってことに、
なんでアイツは気づかないんだろう。
なんでわざわざ、気を利かせたふりして、オレとユウナを一緒に帰らせようとしたんだろう。
ああ、女子ってわかんねぇ――。
「ちきしょう!」
ワタルは、道の脇に解け残っていた雪の固まりを、スニーカーのつま先で思いっきり蹴飛ばした。
(おわり)
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