星に願いを★
カリフォルニアにいる彼の元から少女宛に航空便が送られてきた。
わくわくしながら箱を開けると、中から出てきたのは30センチ位の大きさの
赤毛のピエロ人形だった。服と帽子はピンクと白のストライプ、笑った目元には
シルバーの大きな星形ビーズ。背中に蝶のような形をした大きなネジが付いていて、
それがゼンマイ仕掛けのオルゴール人形なのだとわかった。
「もしもし〜、ありがとう。すっごく可愛い!」
「あ、届いたんだね。あれさぁ、この間、街を歩いていたらなんか強い視線を
感じてさ。ふっと振り向いたら、古びた店のショーウィンドウの中の、あの人形と
目が合っちゃったんだよ。その時なぜか君の顔が浮かんできちゃってさ。
で、さっそく買って、しばらく僕の部屋に置いておいたんだけど、僕よりもきっと
君の方が必要だと思って。え? ああ、いや、なんでもない。
僕だと思って大事にしてよね」
その日からその人形は少女の部屋で、少女と過ごすことになった。
高校時代から仲の良かった二人は、卒業後、彼は大学へ進学し、そこから
アメリカへ留学、そして少女は仲間内で人気の高かった大きな商社に就職をしていた。
しかし、華やかすぎるその職場に少女は馴染めず、仕事帰りに街へ繰り出す
先輩達を横目で見ながら、まっすぐ家路につくような生活をしていた。
彼はアメリカに行ってしまって近くに居ない。もちろんメールも送り合ったし、
電話だってしようと思えばできたけれど、やはり会って話すようなわけにはいかない。
少女の淋しい気持ちは少しずつ募っていった。
そんな満たされない日々に変化が訪れた。
今までと同じような生活を続けているのに、心はなぜか晴れやか。
部屋に帰ってそのピエロの人形に今日の出来事などを話していると、彼が傍にいて
話を聴いてくれているような気がして、少女はささいなことで落ち込むこともなくなり、
本来の明るさを取り戻していった。
けれどもそのうちに、人形の様子が変わって来た。
笑顔だったピエロの表情は悲しみのそれになり、曲に合わせて小首をかしげる仕草も
とても重たそう。
「どうしよう、故障かしら」
心配になった少女は思い切って彼に電話をした。
「ねぇ、あの人形の様子がおかしいの」
するとなぜか彼は、電話の向こうで笑っている。
「あのね、あのピエロ。あれはさ、君の淋しい気持ちや悲しい気持ちを
全部受け止めているのさ。だから今、君はきっととても元気だよね」
「え、そうなの? わぁ、私のせいだったんだ。ごめんね、ピエロちゃん」
少女はピエロの人形をギュっと抱きしめた。
突然、人形の目元の星がまばゆいばかりに輝きだした。
そこからシャワーのように光りがあふれ出したかと思うと部屋中に広がり、
頭の上には煌めく七色の虹が架かった。
そしてそれは星の輝きが弱まるのと同時に、ス〜っと消えていった。
驚きのあまり声も出せずにいた少女は、ハッと我に返ると人形の顔を見た。
ピエロの人形は一番最初に見たときのように、にこやかに笑っている。
「今の、何だったんだろ・・・。人形は直ったみたいだけど」
「びっくりしたろ? うん、僕もそうやって直した。
だって、まるで君が泣いてるように見えて、思わず人形を抱きしめちゃったんだ。
そのピエロは僕の代わりだよ。僕はいつでも君の傍にいるからね」
少女は頬が熱くなるのを感じた。
そういえば、彼は民俗学を研究しているんだったっけ。
そのことと今のできごととは、何か関係があるのかも知れない。 だけど理屈なんかどうだっていい。
あんなステキな虹が見られるんだったら、どんなことにも耐えられそう。 少女は、人形の背中のネジを巻き直し、机の上に座らせた。
ピエロの人形はこくこくと小首をかしげながら、少女の大好きな曲を奏で始めた。
それを見つめながら、少女は、夏休みには絶対アメリカへ行こう! と心に誓った。
When You Wish Upon a Star
(星に願いを)
♪When you wish upon a star Make no
difference who you are
Anything your heart desires Will come to you♪
作曲: Leigh Harline
作詞:Ned Washington
(おわり) |