西の浜辺ののボトル

 

浜辺に朝がやってきた。

「チチチ、チチチ」

どこからか、小鳥のさえずる声がする。

 

ひたひたと波の打ち寄せる砂浜にころがっていた、緑色のワインボトルは、

ラベンダー色の夜明けの空を見上げて、大きくひとつ、深呼吸をした。

「ああ、やっと陸地にたどりつくことができた!」

ボトルは、遠い南の海から何日もかけて漂いつづけて、ようやく、この浜辺に

打ち上げられたのだった。

 

サササ〜。サササ〜。

波が静かにボトルを洗っている。

潮風がやさしく吹き過ぎる。

カモメが一羽、海の上を飛んでゆく。

 

やがて、あたりに、きらきらと昼の光が満ちてきた。

小さなカニが、どこからかせわしげにやってきて、ボトルに話しかけた。

「見かけない顔だね。君はどこから来たの?」

 

「やぁ、カニさん、こんにちは。たぶん、ずっと南の方の海からだと思う。

ひとりでワインを飲み干してしまった若者がね、僕の中に手紙を入れて、

月夜の海に流したんだよ。

だれかが拾って読んでくれたら、お友達になれるかもしれない、ってね」

 

「ふうん、そうなんだ。でも残念だけど、僕には君を開けられないや」

そう言って、カニはまた、せわしく歩いてどこかへ行ってしまった。

 

そのあと近づいてきたアジサシも、チョンチョンとボトルをくちばしでつついただけで、

すぐに飛んでいってしまった。

 

サササ〜。サササ〜。

波が静かにボトルを洗っている。

寄せては返す、心地よい波のリズム・・・・・・

 

いつの間にかうとうとしていたボトルは、まぶしさに思わず目を覚ました。

目の前の海が金色に輝いている。

ゆらゆらゆうゆう、オレンジ色に燃えたつでっかい夕日が、

じゅじゅっと音を立てて海の中へ沈もうとしているところだった。

 

一瞬ごとに空の色が変わる。

ゴールド、オレンジ、ダークオレンジ、バイオレット、そして・・・・・・ブルー・・・・・・

 

頭の上で、星がまたたきはじめる。

ひとつ。またひとつ。

緑色のボトルが、波に揺られている間に、何度も見た一日の終わり。

 

そして明日また太陽が昇ったら、新しい一日が始まる。

こうしたことが、これからも幾度となく、くり返されてゆくのだろう。

「明日。僕を開けてくれる、かわいらしいお嬢さんが現れてくれるといいな」

そう願いながら、ボトルはそっと、眠りについた。

 

 (おわり)

 

このお話は絵本になりました。

(言葉のない、ラストのページにご注目^^)

詳しくはこちらをご覧下さい 。