僕が石垣島へ行く理由

 

僕には、人魚の友達がいる。うす緑色のきれいな髪をした、

僕と同い年くらいの女の子。

その子と知り合ったのは、友達と石垣島に行ったときなんだ。

そこで、現地の人にシュノーケリングのやり方を教わって、

僕は初めて珊瑚礁の海に潜った。

自慢じゃないけど、僕は泳ぎがうまくてさ、シュノーケリングなんか、

すぐにできるようになった。

光の差し込むリーフの、透きとおった海の中には、

青やオレンジの可愛い魚たちがいっぱいいる。

そんな魚たちを追いかけて、夢中になって泳いでいたら、

いつの間かその子が僕のとなりを泳いでいたんだよ。

長い髪が海草みたいにゆらゆらしてて、とってもきれいだったなぁ。

でもね、一緒に行った友達にはその子が見えなかったらしい。

あとで話をしても、そんな子知らないって言うんだもん。

それでも、僕が海に潜るたびに、その子がそばに来てくれるので、

僕は石垣島の海がとっても好きになっちゃったよ。

でね、島に来て3日ほど経ったとき、急に僕の歯が痛み出したんだ。そう、虫歯。

前からシクシクしてたんだけど、歯医者さんへ行くのって、誰だって

あまり好きじゃないでしょ? だから僕も、ついほっといて……。

友達の手前、我慢して海には行ったんだけど、もう、泳ぐどころじゃないんだよ。

そしたら、例の人魚の子がやってきて、僕の手を引いて、

どこかへ連れて行こうするんだ。

う、これは危ないかな、とも思ったんだけど、興味本位でついて行ってみることにした。

あまりにも歯が痛かったんで、もうなんでもいいや、と思ってたかもしれない。

その子は僕をリーフの陰に連れて行った。下の方まで潜っていくと、岩の間から、

赤と白のだんだら模様の、とってもきれいなエビが顔を覗かしてた。

人魚の子は、そのエビに何か囁いてから、僕に口を開けろって、

手真似で伝えるんだよ。

――このエビって、ウツボなんかの口の中を掃除する、乙姫エビだ!

そう僕は気づいた。

――そうか、だから、僕の口を掃除して、歯の痛いのを治してくれようとしてるのか。

だけど、僕のは虫歯だぞ。いや、でも、物は試し……。

僕は、痛いのさえ治ればいいや、みたいに思って、言われたとおり、

口をあ〜んって開けたよ。

そしたら、そのエビは、僕の口の中に入ってきて、なにやらこそこそ動いてる。

僕は、飲み込んじゃいけない! って必死だったよ。

なるべくなら、僕の息が続いてるうちに終わってくれ、なんて思ってるうちに、

僕の歯の痛みは不思議と消え去り、

エビもさっさと元いた岩の間に潜り込んでしまった。

そして僕はまた、人魚に連れられて、みんなのいるところまで帰ってきたというわけさ。

僕はその人魚が、僕に何かして欲しいんだと思った。

でね、何をして欲しいの?って、手真似で聞いてみた。

そしたらその子はね、石垣島の海が、ずっときれいでいられるように守ってほしい。

珊瑚礁を守って欲しいって言ってきた。うん、確かにそう伝えてきた。

だからね、それから毎年、僕は、石垣島へ行って、

失われつつある珊瑚礁を再生させようと、珊瑚の子どもを育てる手伝いをしてるんだ。

いや、ホントの話だってば。

(おわり)