アントニーとクレオパトラ Antony and Cleopatra |
《あらすじ》
紀元前40年から30年までの10年間のローマとエジプトが舞台。44年のシーザー暗殺後オクテヴィアス、アントニー、レピダスの3執政官による三頭政治がしかれていた。しかし、かつての名将アントニーは、エジプト女王クレオパトラの色香のとりことなり遊興に耽っている。そんな時、三頭に反逆するポンペイの反乱が起きたり、ローマにいる妻がオクテヴィアスと戦いを始めたものの病死してしまうとの知らせを受けアントニーはローマに戻る。
亡き妻が原因できまずくなったオクテヴィアスとの仲を修復しようと、アントニーはオクテヴィアスの姉オクテーヴィアと政略結婚するが、これがクレオパトラを激怒させる。
ところがその後、オクテヴィアスとアントニーの亀裂は深まり、アントニーは妻を捨てエジプトのクレオパトラの元に舞い戻りシーザーとの戦いに挑む。
アントニーとクレオパトラはともにオクテヴィアス軍と戦うが、海戦の戦闘中に逃げ出したクレオパトラを追ってアントニーも退却し敗北を喫する。
アントニーはクレオパトラに対する怒りと不信感を爆発させてしまい、耐えきれなくなったクレオパトラは自らの訃報を流す。嘘の知らせを信じたアントニーは絶望して自害におよぶが、瀕死の状態で事の真相を知りクレオパトラと再会するが絶命する。その死を知ったクレオパトラは、エジプト女王の正装をして毒蛇に自らの胸を噛ませて果てる。
やってきたオクテヴィアスはアントニーの傍らにクレオパトラを葬るように指示をして終幕となる。
《ポイント》
1 「ロミオとジュリエット」と似たようなエンディング。シェイクスピアや当時のテムズ河畔の人々が好きそうなお話なのでしょうか。とは言っても、初々しい青春の突っ走る愛を描いた「ロミオとジュリエット」とは違って、こちらは熟年の政略結婚と単身赴任の不倫という感じもするお芝居です。 2 シェイクスピアは、古代ローマを最初に扱った「ジュリアス・シーザー」から8年後、この「アントニーとクレオパトラ」を書きました。「ジュリアス・シーザー」でシーザーが暗殺された後に名演説をしたのがアントニーで、あの英雄アントニーの後日談でもあります。
ただし今回のアントニーは折角の主人公なのにクレオパトラに翻弄されるダメ男です。(何故アントニーはダメ男になってしまったのか、実はこの背景には話せば長い史実があるように思います。シーザーなき後のリーダーは自分と思っていたがシーザーが遺言で指名したのはオクテヴィアス。そしてエジプトで惚れてしまったのがシーザーの元愛人クレオパトラ。この辺の屈折した感情と関係がアントニーの深層心理に影響しないはずはないでしょう。本作はプルタルコスの「英雄伝」を下敷きにしており、シェイクスピアは当然この史実を織り込んでいます。)3 シェイクスピアの円熟期の作と位置づけられますが、悲劇のようでもあり喜劇のようでもあり評価も分かれるようです。そして、場面がめまぐるしく変わるのがこの劇の特徴です。エジプトのアレクサンドリアからローマへ、またエジプトへ、そしてシチリア島のメシーナへ、さらに再びローマへ・・・と。とにかく行ったり来たり。加えておびただしい使者や伝令が出入りします。5幕42場を追って観る方も大変です。
《名せりふ》
第T幕第1場 (クレオパトラ)
本当に愛しているのなら、どのくらいか言って。
(アントニー)
どのくらいか言えるような愛は貧相なものだ。(Cleopatra)
If it be love indeed, tell me how much.
(Antony)
There's beggary in the love that can be reckoned.(松岡和子訳)
《観た読んだ歴》
play
2011年10月2日
彩の国シェイクスピア・シリーズ第24弾
さいたま術劇場
蜷川幸雄演出
CAST
吉田鋼太郎 アントニー
安蘭けい クレオパトラ★蜷川シェイクスピア第24弾を観ました。
この芝居はクレオパトラを誰が演じるかによって決まってしまうのでしょう。美貌と地位と明晰な頭脳と情熱、一方で深謀遠慮や激しい嫉妬心。今回は元宝塚歌劇団スターの安蘭けいが演じました。アントニー役は彩の国シェイクスピアシリーズの常連の吉田鋼太郎です。パワフルな政治家でありながら女に惑わされてしまう英雄を自信をもって演じていました。
《観た読んだ歴》
film
《観た読んだ歴》
book
2011年9月
松岡和子訳
ちくま文庫 シェイクスピア全集21★蜷川シェイクスピア第24弾で使われた台本です。
松岡さんは、この作品について「大人の恋の駆け引きが非常に面白く描かれている本で、ここまで男女の機微をリアルに描いた心理劇は、シェイクスピアの作品でもほかに類をみない。」と言っています。
大人の恋愛物のせいか、台詞の暗示、特に性的な暗喩が注釈で説明されています。