コリオレイナス Coriolanus

《あらすじ》

 舞台は、紀元前5世紀のローマ。腕の立つ武将コリオレイナスが敵(ヴォルサイ人)に勝利し執政官候補となるが、プライドの高さ故、市民の許諾を得るための市民集会で平民に媚を売ることを嫌う。護民官の策略もあり、平民の裏切りで弾劾に会う。怒ったコリオレイナスは、敵方の将オーフィディアスに走り、逆に敵とともにローマを滅ぼそうとする。その勇猛果敢さと思いきや、母ヴォラムニアの説得により断念。結局は自滅の道をたどる


《ポイント》

 「コリオレイナス」は、シェイクスピア後期の作品でローマ史劇の3作目。
 このお話しは、数あるシェイクスピア作品の中でも、決して人気のある作品とは言えません。どちらかと言うと、上演の少ないマイナーな作品でしょう。理由は、史劇のせいか堅さがつきまとい、心踊るような劇的展開がないということの他に、何を主題にしているのか明確でないということもあるでしょう。主人公の平民嫌いのエリート主義を揶揄しているのか。民衆の愚かさという衆愚政治の危うさに警鐘を鳴らしたいのか。はたまた母親に説得されてしまうマザコンが主題なのか。・・・等々どれも決め手にはならないような気がします。
 この作品で、シェイクスピアは「悲劇」を書くことをやめたそうです。ブレヒトが翻案を試みたり等、地味ではあるが、玄人受けする作品という評もあります。

《名せりふ》

第X幕第3場
コリオレイナス(説得する母と妻たちへ〜傍白)

ええい、消えてしまえ、肉親の情けなど!
夫婦の愛も絆も切れるがいい!
心を石にする罪深さをこそ美徳と思え。
        〜
本能などに負ける雛鳥でおれがあってたまるか。
おれは自分で自分をつくった男として立つ、
身内のことなど知ったことか。

But out, affection,
All bond and privilege of nature, break!
Let it be virtuous to be obstinate.
       〜
I'll never be such a gosling to obey instinct,
but stand as if a man were author of himself,
and knew no other kin.
(木下順二訳)

観た読んだ歴
play

2007年1月28日
彩の国シェイクスピアシリーズ第16弾
さいたま芸術劇場
蜷川幸雄演出

コリオレイナス:唐沢寿明
ヴォラムニア:白石加代子
オーフィディアス:勝村正信



劇が始まると、いきなりステージの幕が鏡となって現れます。鏡に映るのは我々観客の顔、顔、顔・・・です。そう、観客がもうローマの民衆となってしまったのです。そうして、これから始まる物語をローマの民衆と一緒になって目撃するのです。もうこれで最初から、今回も蜷川さんにやられましたね。そして、鏡が開かれてローマの広場が現れます。階段の広場です。階段には、ローマ彫刻ではなく、なんと四天王像があります。これも、いい。これだけの仕掛けがあれば、観客は蜷川ワールドに飲込まれるばかりです。戦闘シーンや群衆の動きも階段の立体的なステージと鏡に映し出されて見事な臨場感を出しています。配役もベテランの蜷川シェイクスピア常連組が充実した演技で、劇の展開をしっかりと迫力あるものにしています。特に母親役の白石加代子は凄い。とにかく凄い。コリオレイナス役の唐沢寿明も長い科白とともに、戦闘シーンの剣術に冴えをみせていました。・・・・劇のラストは、般若心経の”色即是空、空即是色”の読経で終わりました。

観た読んだ歴
film


観た読んだ歴
book

2007年1月
木下順二訳
講談社(1989)
★コリオレイナスは購入可能な本が見つからず図書館から借りて読みました。