ジュリアス・シーザー Julius Caesar |
《あらすじ》
共和制末期のローマ、紀元前44年3月15日のジュリアス・シーザー暗殺とその後をめぐる物語。
宿敵を破ったシーザーが民衆の歓呼を浴びながら堂々とローマへ凱旋するところから芝居は始る。護民官や貴族のなかには、今や対抗勢力のなくなったシーザーに危険な野心を感じるものがいた。キャシアスも、その権力が益々強大になり共和制の伝統を破壊することを危ぶんでいた。そして、市民から厚い信望を得ていたブルータスを仲間に引き入れ、シーザーの暗殺を決行する。
英雄の死に一度は混乱した市民たちも、直後に行われたブルータスの演説に納得するが、シーザーの腹心だったアントニーが弔辞を述べると、今度は逆に反ブルータスへと翻ってしまう。
形勢が逆転し、ローマを追われたブルータスとキャシアスは、兵を集めて戦いに打ってでるが、あえなくアントニーの軍勢に打ち破られてしまう。全てを覚悟したブルータスは部下に握らせた剣に自らもんどりうって倒れ込んで終わる。アントニーは、謀反人のなかでブルータスだけが私心なくローマへの思いがそうさせたと言って、その遺体を厚く葬り幕となる。
《ポイント》
1 シェイクスピアの「ローマ史劇」の最初の作品。「ジュリアス・シーザー」というタイトルになっているが、シーザーの悲劇的な運命よりも、シーザーを暗殺したブルータスの失敗を中心にした物語となっている。 2 シーザー暗殺後、暗殺したブルータスと、反対の立場のアントニーとが、それぞれの正当性をアピールする演説合戦が一つの見所。理想や高潔以前に、民衆の心をより捉えたほうが支持を得る様子は、今も昔も変わらないと思わせる。言葉の力を再認識させるとともに、群集心理の危うさ巧みに描いたシェイクスピアの冴えに感心させられる。 3 前509年、小さな都市国家だったローマは、専制的な王を追放して共和制をはじめた。共和制を成り立たせたのが、執政官、民会、元老院による権力分散の仕組みだった。共和制のもとローマは地中海世界を支配する大帝国になっていくが、大帝国になれば新しい統治体制も必要となってくる。そこに現れたのが天才シーザーであり、シーザーを王の再来と恐れた旧体制が抵抗したという政治抗争が時代背景となっている。シェイクスピアがこの悲劇の下敷きにしたのがプルタークの「英雄伝」。
《名せりふ》
第V幕第1場 (シーザー)
お前もか、ブルータス?それなら、死ね、シーザー!(Caesar)
Et tu, Brute? Then fall, Caesar!第V幕第2場 (アントニー)
友よ、ローマ市民よ、同胞諸君、耳を貸していただきたい。
今、私がここにいるのは、シーザーを葬るためであって、讃えるためではない。
人の悪事をなすや、その死後まで残り、善事はしばしば骨とともに土中に埋もれる、シーザーもそうあらしめよう。(Antony)
Friends, Romans, countrymen, lend me your ears!
I come to burry Caesar, not to prais him.
The evil that men do lives after them,
The good is oft interred with their bones;
So let it be with Caesar.(福田恆存訳) ★「ブルータス、お前もか?」はあまりにも有名な台詞。しかし、この"Et tu, Brute?"はラテン語が使われている。なぜシェイクスピアがラテン語を選んだのか。Bruteがbrute(獣)という英単語と掛け言葉にしたとも言われている。 ★アントニーの演説は、シェイクスピアの描いた演説でも最高のものと言われる。聴く者を酔わせるような調子の良さとレトリックの巧みさがある。ブルータスを讃える裏に、逆の意味が込められていることに気付かされる様に仕組まれている。
《観た読んだ歴》
play
2014年10月22日
彩の国シェイクスピア・シリーズ第29弾
さいたま術劇場
蜷川幸雄演出
CAST
阿部寛 ブルータス
藤原竜也 アントニー
横田栄司 シーザー
吉田鋼太郎 キャシアス★蜷川幸雄演出の彩の国シェイクスピア・シリーズ第29弾を観ました。
舞台は、ローマの広場を思わせる階段が正面の全面に大きく据えられ、観客はローマの民衆とし取り込まれ、そこを役者たちが縦横無尽に動きまわっていました。メインキャストは蜷川シェイクスピアにはお馴染みの実力派の役者たちで、”蜷川組の豪華俳優陣の共演と競演による饗宴”といった感がありました。
★今回は、朝日カルチャーセンター主催の「プレレクチャー&アフタートーク」に参加しました。講師は、今回の翻訳者の松岡和子さんです。プレレクチャーでは、松岡さんの翻訳のお話しや劇の見所などをお伺いしました。特に、松岡さん自信が稽古に参加し役者とともに本を手直ししたことや、四幕三場のブルータスとキャシアスの喧嘩の場面が今回の芝居の隠れた見所ということでした。アフタートークでは、シザー役の横田栄司さんとのゲストトークで、なんと吉田鋼太郎さんも飛び入り参加し、稽古場でのエピソードを交えた貴重なお話しを聞くことができました。
★2005年1月に、イギリスのStratford-upon-AvonでRSCによる"Julius Caesar"も観ています。(Michiyo)
《観た読んだ歴》
film
200X年X月
スチュアート・バージ監督、1970年、イギリス
チャールトン・ヘストン(アントニー役)
★他にジョゼフ・マンキーウィッツ監督、1953年、アメリカ、マーロン・ブランド主演もあるようです。
《観た読んだ歴》
book
200X年X月
福田恆存訳
新潮文庫★2014年10月の蜷川第29弾は松岡和子訳を使っています。松岡さんのお話しでは、芝居稽古の過程で手直しがあるので、本は第2版を読んだ方が良いですよということでした。そんなわけで第2版がでたら読もうと思います。