リア王
 King Lear

《あらすじ》

 古代ブリテン、老いた国王リアは自らの引退を宣言し、三人の娘に「親を思う気持ちが最も深い者に、最も大きな贈り物を授ける。」と言う。長女ゴネリル、次女リーガンは美辞麗句で父を称えるが、末娘コーディリアは素直な気持ちを伝え、父の怒りを買い勘当される。しかし、その後、二人の姉も手のひらを返したように父に冷たく当たる。絶望したリアは、道化を連れて荒野をさまよう。嵐の荒野、風雨の中にリアの咆哮が響き渡る。王の後を追うのは、忠臣ケント伯と自分の私生児エドマンドに騙されたグロスター伯。グロスター伯はリーガン夫婦に両目をくりぬかれている。やがて、リアはフランス王妃となったコーディリアと再会するが、ともに捕らえられる。一方、二人の姉たちもエドマンドへの嫉妬が絡み合い毒殺と自害。獄中で殺されたコーディリアを抱きかかえたリアも嘆きながら死に絶え、残酷な悲劇は幕となる。


《ポイント》

 この作品は、いわゆる四大悲劇のひとつですが、もっとも恐ろしく、残酷で、救いのない「悲劇」そのものと言われています。
 高齢者の財産相続と世代間の葛藤がまともに取り上げられて、超高齢社会を迎える現代の日本人にとっても、「老い」との向き合い方を問いかける今日性のある作品です。
 それにしても悲劇すぎます。最後はすべて死に絶える救いのない悲劇です。少なくとも末娘コーディリアぐらいは一縷の希望として生かしてほしかった。・・・・と思ったら、シェイクスピアが素材とした古い物語はハッピーエンドだそうで、シェイクスピア後にもハッピーエンド版に改作されて上演された時代もあったそうです。
 松岡和子氏は、この作品の特徴として「母の不在」と女性の性と生殖が切り離されたラジカルさがシェイクスピア作品の中でも頻度高く上演され続けている一因と言っています。

《名せりふ》

第W幕第1場
グロスター
わしには、道はない。それだもの、目は要らぬ。
目が見えた時には、つまづいた。よくある例ではないか。
物があれば、心は驕る。
物がなければ、心はかえって足るを知る。
I have no way and therefore want no eyes;
I stumbled when I saw. Full oft 'tis seen
Our means secure us, and our mere defects
Prove our commodities.
(安西徹雄訳)
第W幕第6場
リア
生れ落ちると、われわれは泣き叫ぶ、
阿呆ばかりのこの大舞台に引き出されたのが悲しくて。
When we are born we cry that come
To this great stage of fool.
(野島秀勝訳)

観た読んだ歴
play

1999年9月?日
彩の国シェイクスピア・シリーズ第4弾
さいたま芸術劇場
蜷川幸雄演出
★蜷川幸雄演出のシリーズ第4弾を観ました。英国RSCとの共同制作です。役者は英国RSCのメンバーで、日本人の蜷川がシェイクスピアの本場の英国のRSCを演出するという画期的な舞台です。リア王役は名優サー・ナイジェル・ホーソン、唯一の日本人役者は道化役の真田広之です。舞台は能舞台のような設定で、荒野のシーンでは岩が降ってくるなど蜷川リア王の色濃いワクワクするものでした。宇崎竜童の音楽も効果的でした。日本公演後に英国公演もあるそうです。本場でどう評価されるか楽しみです。

2008年1月20日
彩の国シェイクスピア・シリーズ第19弾
さいたま芸術劇場
蜷川幸雄演出
★蜷川幸雄演出のシリーズ第19弾を観ました。1999年以来の再演です。今回は、前回の英国RSC役者版を超えるべく「理想の日本人キャストが結集」した”オール日本人キャスト版”だそうです。リア王役は平幹二郎です。蜷川シェイクスピアでは平の演じる「テンペスト」を観たことがありますが、今回も圧倒的な存在感がありました。グロスターはおなじみの吉田鋼太郎。舞台は今回も能舞台の雰囲気を踏襲していますが、前作より外見のけれんみがとれて穏やかだったような気がします。一方、”老い”と”家族の愛憎”の救いのない悲劇が観るものにじっくりと迫ってきました。

観た読んだ歴
book

1999年9月  福田恆存訳  新潮文庫
1999年9月  "King Lear" The New Penguin Shakespeare
2008年1月  安西徹雄訳 光文社古典新訳文庫
2008年1月  野島秀勝訳 岩波文庫
2008年1月  ピーター・ミルワード編注 大修館シェイクスピア双書   
★NHKラジオで1999年に放送された「原書で読む世界の名作・シェイクスピア リア王」を聞きました。BBCラジオドラマによる音声と東京工業大学教授の服部隆一氏による解説です。手元に当時の録音テープがあります。