から騒ぎ Much Ado About Nothing |
《あらすじ》
舞台はシシリー島のメシーナ。アラゴン領主ドン・ペドロ率いる軍隊が凱旋してくる。その部下クローディオがメシーナ知事の娘ヒーローに一目惚れして結婚の運びとなる。もう一人の部下ベネディックは知事の姪ビアトリスと何故かいつも毒舌を浴びせあう微妙な仲だが、一同は「二人は互いに片思い」と噂話を作って二人を恋に陥らせる。
知事の弟ドン・ジョンは人の幸せを妬む腹黒い人物。クローディオとヒーローの仲を、悪巧みにより引き裂こうとする。クローディオは、その罠にはまり結婚式の場でヒーローを面罵してしまう。怒ったビアトリスは、恋人ベネディックに「クローディオを殺して」と頼み、彼はクローディオに決闘を申し入れる。
しかし、滑稽な夜警がドン・ジョンの手下を逮捕し、真相が発覚してしまう。後悔したクローディオは、修道士の機知で死んだことになっているヒーローの代わりにその従妹と結婚することにする。
やがてその結婚式の場に現れた従妹は実はヒーロー本人と判明する。そしてベネディックとビアトリスも結ばれ、めでたしめでたしとなる。
《ポイント》
1 「から騒ぎ」は、ヒーロー・クローディオ物語とビアトリス・ベネディック物語のダブル・プロットで構成されている。主要な筋は前者であるが、本当に面白いのは後者である。じゃじゃ馬で男嫌いの女と結婚を軽蔑する女嫌いの男がころりと変わってしまう。人間は相手の自分に対する感情次第でどうにでも変わりうるものだというところが滑稽でもあり、肯かせるところでもある。 2 この芝居は、シェイクスピアの脂ののりきった喜劇時代に書かれた作品で、「お気に召すまま」、「十二夜」を加えて三大喜劇と言われている。シェイクスピアの喜劇の全系列において最もイタリア的な作品であり、生きる歓びを徹底的に表現するルネサンス精神をよく体現したものとされている。 3 腹黒いドン・ジョンの疎外された世界と滑稽な夜警や手下の道化の世界が、この喜劇に締まりと面白さを与えている。シェイクスピアの作劇のうまさに魅了される。単なる「から騒ぎ」ではないのである。
《名せりふ》
第U幕第1場〜ビアトリス 求婚、結婚、後悔は、たとえてみればスコッチ踊りに宮廷舞踊にシンク・ペース踊りのようなものだわ。・・・ 第U幕第3場〜ベネディック 人口は殖やさねばならぬ・・・・俺は独身のまま死ぬと言ったのは、結婚するまで長生きすると思わなかったからだ。 . 第W幕第1場〜ベネディックとビアトリス (ベネディツク)お為になる事なら、何でも言い付けてください。
(ビアトリス)殺して、クローディオを。
(ベネディツク)え!そればかりは。
(ビアトリス)厭だとおっしゃる、その言葉が私を殺します。・・・・(Benedick) Come, bid me do any thing for thee.
(Beatrice) Kill Claudio.
((Benedick) Ha, not for the wide world.
(Beatrice) You kill me to deny it. ・・・(福田恆存訳)
《観た読んだ歴》
play
2008年10月20日
彩の国シェイクスピア・シリーズ第20弾
さいたま術劇場
蜷川幸雄演出
★蜷川シェイクスピア第20弾を観ました。
出演者全員が男性”オールメール”の第4弾です。ベネディック小出恵介、ビアトリス高橋一生、クローディオ長谷川博巳、ヒーロー月川悠貴、そしてドン・ペドロ吉岡鋼太郎という配役です。
★蜷川幸雄さんは、「近代劇がそぎ落とし、取りこぼし、あるいは殺してしまったものが溢れているシェイクスピア劇に強く惹かれる。・・・打ち捨てられたものたちの過剰なエネルギーを舞台に甦らせたい。」とこの公演に当たり言っています。
★公演終了後、出演者と松岡和子さんのよるアフタートークがありました。
《観た読んだ歴》
film
2008年10月
1993年英米映画、ケネス・ブラナー主演・監督・脚色★監督・脚色・出演の3役をつとめたケネス・ブラナーの若さとエネルギーあふれる演出や、デンゼル・ワシントン、キアヌ・リーブス、エマ・トンプソンらの脂がのりきった演技が実に楽しい映画です。ベネディックとビアトリス役に名優を得た時に、「から騒ぎ」の上演は成功すると言われていますが、まさにそのことを示す映画です。
舞台となっているイタリアのメシーナらしい風景も美しい。
《観た読んだ歴》
book
2008年10月
福田恆存訳
新潮文庫★1円の古本で読みました。他に小田島雄志氏と松岡和子氏の訳本があります。