じゃじゃ馬馴らし The Taming of the Shrew

《あらすじ》

 領主が、居酒屋の前で眠り込んでいる酔っ払いを殿様扱いにする悪戯を企む。そしてこの「殿様」のために演じられるのが「じゃじゃ馬馴らし」という芝居という設定になっている。
 イタリアのパドヴァの富豪バプティスタには二人の娘がいる。次女ビアンカには多くの求婚者がいるが、父親は、じゃじゃ馬の長女カタリーナが片付くまでは次女は結婚させないと言っている。次女の求婚者たちは困り果てるが、そこへベトルーキオという紳士が現れ、事の次第を聞いた彼は、持参金欲しさに長女に求婚する。そして、カタリーナに食べ物も睡眠も与えない「じゃじゃ馬ならし作戦」を始める。
 一方、ビアンカは求婚者の一人ルーセンシオと密かに結ばれる。また別の求婚者の一人ホーテンシオはある未亡人と結婚することになる。やがて三組のカップルはそろって宴会を催し、男たちはどの妻が一番従順かで賭けをするが、勝ったのは、なんとじゃじゃ馬と結婚したベトルーキオだった。最後にじゃじゃ馬の筈だったカタリーナが従順なる大演説を滔々と述べて大団円となる。


《ポイント》

 「じゃじゃ馬馴らし」は、シェイクスピアが盛んに先人たちの作品を模倣しながらも自分の持ち味を生かそうと苦心していた習作時代の1592年からその翌年にかけて書かれた作品。全体が明るく陽気な喜劇で、後の悲劇的要素はないが、シェイクスピアらしさの萌芽は随所に感じられる。
 夫が妻を「調教」するという男尊女卑のようなお話しで批判も多い作品だが、劇全体が領主の酔狂によってなされる劇中劇となっており、「女を思い通りにできたらどんなにいいだろう」という男の夢物語なのかもしれない。
 ただ、この劇中劇、なぜか劇中劇のままで終幕になっているところが、なんとも不思議なところでもあります。シェイクスピアの深い意図か、ただのなりゆきなのか、何れにしても演出で一工夫が必要とされるところです。
 最後のカタリーナの従順なる大演説の後、ベトルーキオは「おお、それでこそ女!さ、接吻してくれ、ケイト(カタリーナ)。」と言う。現代の人気ミュージカル「キス・ミー・ケイト」はこの「じゃじゃ馬馴らし」が原作となっている。
 原題「The Taming of the Shrew」のShrewはネズミの一種でキィーキィー甲高く耳障りな声で鳴くことから英語圏では「口やかましい女」の代名詞となったそうです。

《名せりふ》

第W幕第5場〜パドヴァへの山道で”太陽は月”(抜粋)
(ベトルーキオ)やあ、すばらしい月だ、こうこうと輝いている!
(カタリーナ)月ですって!太陽ですよ。
(ベトルーキオ)いや、あれは月だ。
(カタリーナ)いいえ、あれは太陽です。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(ベトルーキオ)月だ。
(カタリーナ)そう、月ですわ。
(ベトルーキオ)違う、お前は嘘つきだ。明明白白、あれは太陽だ。
(カタリーナ)それなら、ええ、確かに、あれは太陽ですわ。でも、あなたが、それは違うとおっしゃれば、太陽ではありません。月だって、いろいろに変わります。あなたのお心と同じように。あなたがこうとお呼びになれば、そのとおりになります。そうなれば、あたしもそう呼びます。
(Pet.)How bright and goodly shines the moon!
(Kath.)The moon! the sun.
(Pet.)I say it is the sun.
(Kath.)I know it is the sun.
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・
(Pet.)I say it is the moon.
(Kath.)I know it is the moon.
(Pet.)Nay, then you lie; it is the blessed sun.
(kat.)Then God be bless'd, it is the blessed sun; But sun it is not when you say it is not.
And the moon changes even as your mind.
What you will have it nam'd, even that it is;
And so, it shall be so for Katharine.
(福田恆存訳)

観た読んだ歴
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2010年10月30日
彩の国シェイクスピア・シリーズ第23弾
さいたま術劇場
蜷川幸雄演出
★蜷川シェイクスピア第23弾を観ました。
出演者全員が男性”オールメール・シリーズ”の第5弾です。
じゃじゃ馬カタリーナ役は歌舞伎の市川亀治郎、ベトルーキオには筧利夫、そしてビアンカは月川悠貴、ルーセンシオは山本裕典という配役です。
★蜷川幸雄さんは、「じゃじゃ馬馴らし」は、男が女を教育することがメインテーマではなく、まずは「頭がいかれた男女の恋愛」物語なんです・・シェイクスピアを真面目に読み過ぎず、心から開放されて「わぁ、楽しかった!」と観て欲しいと言っています。
★舞台セットはボッティチェリの「春」が背景として使われているシンプルなものでした。静かなボッティチェリの絵の暗喩と”狂気”の役者たちのやり取りが面白いコラボレーションとなっていました。
 序幕で登場の領主は、劇中劇を観客席でずっと見ているという演出でした。

観た読んだ歴
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2010年10月
福田恆存訳
新潮文庫
★「から騒ぎ」と一緒の文庫本です。1972年発行。