トロイラスとクレシダ Troilus & Cressida

《あらすじ》

 トロイの王子パリスが、ギリシアの美女ヘレネを奪ったために起こったトロイ戦争も既に7年になる。トロイの末っ子の王子トロイラスは神官カルカスの娘クレシダに恋い焦がれている。クレシダの叔父パンダロスの仲介で、トロイラスはクレシダと変わらぬ愛を誓い合い、ともに一夜を過ごす。しかし、クレシダの父カルカスはギリシア方に、トロイの武将と娘クレシダの捕虜交換を希望し、聞き入れられたため、クレシダはギリシアに渡ることになってしまう。
 トロイラスの兄ヘクトルは、戦況を打開するためギリシアに一騎打ちを申込み戦いが始まる。ギリシアに入ったトロイラスは、なんと、そこで恋人クレシダがギリシアの将軍ディオメデスの求愛を受け入れるのを目撃してショックを受ける。両軍の戦いは休戦を挟んで再開されるが、トロイラスはクレシダの裏切りに絶望し怒りに任せて激しく戦う。やがて、日が落ちて、戦いは終わるが、武装を解いたヘクトルはギリシアのアキレスに惨殺されてしまう。敗色濃いトロイに日が沈む。


《ポイント》

 物語は、あの余りにも有名な古代のトロイ戦争が舞台。トロイ戦争はギリシアの美女がトロイに連れ去られて起こりトロイの木馬なども登場するが、この「トロイラスとクレシダ」は、この戦いの陰で起こるトロイの王子とギリシア方に寝返ったトロイの神官の娘クレシダの若い二人の恋物語。

「トロイラスとクレシダ」は、ハムレットが書かれた直後の作だが、問題作と分類されるように、悲劇のような喜劇のような複雑な味わいのお芝居。翻訳の松岡和子氏は、「悲劇的な要素と喜劇的な要素、そして風刺劇的な要素のミクスチャーが、この芝居の一番の面白さ」と言っています。

トロイラスとクレシダの話は、日本ではあまり知られていないが、西欧ではシェイクスピア以前にチョーサーの「トロイルスとクリセイデ」が一般によく知られており、クレシダは不実な女性像の代名詞のようにもなっている。ちなみに二人の間を取り持ったパンダロスは、英語pander(ポン引き、仲介をする)の語源とのこと。
 劇中にも、「今後あわれな取り持ち役は、世間のすみずみまで俺の名にちなんでパンダーと呼ばせよう。忠実な男はすべてトロイラス、不実な女はすべてクレシダ・・・」とある。


《名せりふ》

第X幕第2場

あれはクレシダであってクレシダではない。

This is and is not Cressida.
(松岡和子訳)
※クレシダはギリシアの将軍ディオメデスの求愛を受け入れ、トロイラスからもらった誓いの印の「袖」を与え、身も心も許してしまう。その様子を陰で見ていたトロイラスが、この芝居のなかで最も有名なこの台詞をつぶやく。

観た読んだ歴
play

201291
彩の国シェイクスピア・シリーズ第26
さいたま術劇場

蜷川幸雄演出
CAST
山本裕典 トロイラス
月岡悠貴 クレシダ
       


★蜷川シェイクスピア第26弾を観ました。
すべての役を男性俳優が演じる“オール・メール”シリーズも今回で6回目となり、もうお馴染みになりました。
ギリシアとトロイの登場人物が入り乱れて、複雑な絡み合いの中で進行する筋立ては、観客にとっても大変で、そのせいか、あまり上演される機会の少ないお芝居ですが、今回も“蜷川シェフ”の腕の冴えのお陰でおいしくいただきました。(ただ、シェイクスピア劇では、重要な味を出す道化役は、もう少しスパイスが効いていても良かったような気もしますが・・・・)


観た読んだ歴
film


観た読んだ歴
book

2012年8月
松岡和子訳
ちくま文庫 シェイクスピア全集23
★蜷川シェイクスピア第26弾で使われた台本です。
松岡和子さんは、「トロイ側のパンダロス、ギリシア側のテルシテス・・・”道化の二大巨頭”とも言うべき人物たちが登場し、彼らの場面が実に効いていて、訳していても非常に楽しかった」と言っています。