ヴェニスの商人 The Merchant of Venice |
《あらすじ》
16世紀末。ヴェニスの貿易商アントーニオは、親友バッサーニオの求婚資金を工面するため、ユダヤ人の高利貸シャイロックから金を借りる。バッサーニオは首尾よくポーシャの夫となる資格を得るが、アントーニオの貿易船が難破し借金の返済ができなくなる。シャイロックは法廷で証文通りその体の肉を1ポンドよこせと迫る。裁判でアントーニオは窮地に立たされたされるが、若い法学士の「一滴たりとも血を流してはいけない」という裁きにより救われる。この法学士、実は男装のポーシャであった。そして、恋人たちは結ばれハッピーエンドとなる。
《ポイント》
1 この作品は、シャイロックをどう描くかで趣きのかわる劇である。強欲で無慈悲で卑しいユダヤ人として描くのか、ユダヤ人差別の犠牲者で娘にも背かれる哀れな存在として描くのか、解釈と演出の分かれるところである。ユダヤ人差別問題は根の深いものがあるが、当時、エリザベス女王の暗殺未遂にユダヤ人がからんでいたという事件があったという背景もあるらしい。 2 この作品は喜劇なのか悲劇なのか。滑稽な箱選びや女たちが男たちに恋試しをするところは、いかにも喜劇である。しかし、シャイロックの末路は、笑い飛ばせるものだけではなく後の悲劇に通じるものがある。 3 「この作品には、さまざまなモチーフが盛り込まれている。人種・宗教問題だけでなく、お伽噺の箱選び、駆け落ち、金が利息を生む資本主義、大岡裁きのような裁判、指輪をめぐる愛の駆け引き・・・・・こうしたさまざまな要素が詰まった”ごった煮”の芝居が「ヴェニスの商人」と言えるのです。」と小田島雄志氏は言っています。 4 劇の冒頭は、アントーニオの「なぜこう気がめいるのか、まったくわからん」という科白で始まる。アントーニオの鬱の原因がなになのか、多くの解釈がなされている謎である。
《名せりふ》
第T幕第1場 アントーニオ なぜこう気がめいるのか、まったくわからん。
実にくさくさする。君らもそうだというのか?In sooth, I know not why I am so sad.
It wearies me, you say it wearies you.〜 〜 第W幕第1場 ポーシャ 証文通りにやるのだ、肉1ポンドだけは取るが良い。
だが、よいか、切り取る際に、もしキリスト教徒の血、
一滴たりとも流した場合は、その方の土地、財産、
ことごとくヴェニスの国法にしたがって、
ヴェニスの国家へ没収するが、それでよいか?Take then thy bond, take thou thy pound of flesh,
But in the cutting it if thou dost shed
One drop of Christian blood, thy lands and goods
Are by the laws of Venice confiscate
Unto the state of Venice.(中野好夫訳)
《観た読んだ歴》
play
2002年6月
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー
東京グローブ座
ラブディ・イングラム演出★RSCの東京グローブ座での公演を観ました。シャイロックのサイドに重きを置いた演出で人権を主張するところは迫力があった。冒頭はタバコを燻らせながらのアントーニオの科白から始まり、最後も同 じく暗示的に終わった。バッサーニオとの同性愛的な暗示も強かったような気がする。箱選びの滑稽さは舞台では一段と面白い。
《観た読んだ歴》
film
2006年1月
2004年米、伊、英合作、マイケル・ラドフォード監督
アル・パチーノ(シャイロック)、ジェレミー・アイアンズ(アントーニオ)、ジョセフ・ファインズ(バッサーニオ)、リン・コリンズ(ポーシャ)★アル・パチーノの名演でやっと映画化が実現した秀作である。ヴェニスのロケで映像が美しい。冒頭にユダヤ人差別の説明的シーンが付加されており、シャイロックは、ひたすら哀れな存在として描かれている。
《観た読んだ歴》
book
2002年5月 中野好夫訳 岩波文庫
2002年5月 "The Merchant of Venice" Penguin Books★NHKラジオ「原書で読む世界の名作」でRSCのラジオ放送を聞く。
「ヴェニスの商人の資本論」(岩井克人著)というユニークで面白い本も読みました。