冬物語 The Winter's Tale |
《あらすじ》
シチリア王レオンティーズは、ボヘミア王ポリクニシーズがシチリアに滞在した折、帰国を引き止める妻の王妃ハーマイオニの言動から突然の嫉妬に駆られ不倫をしていると思い込む。危険を感じたポリクニシーズは急遽帰国し、ハーマイオニは臣下アンティゴナスの妻ポーライナに匿われる。レオンティーズは生まれたばかりの娘パーディタをポリクニシーズの子だと思いみ、他国の荒野に捨ててくるようアンティゴナスに命ずる。アポロンの神託も無視して裁こうとしたため、神の怒りに遭い、王子は心労で急死し、王妃ハーマイオニは自害したと伝えられます。やがて、王は自分の過ちに気付き激しく後悔する。
16年の歳月が流れる。ボヘミアの海岸で羊飼いに拾われたパーディタは立派な娘に成長し、偶然にもボヘミア王子フロリゼルと身分違いの恋仲にある。「羊の毛刈り祭」の最中に愛は進展するが、変装して祭りに紛れ込んでいた父王ポリクニシーズは、王子が父に内緒で結婚しようとしたため激怒し娘に追放を命じその場を立ち去る。
途方に暮れる二人に、忠臣カミローはシチリアに行くように促します。二人はシチリアで懺悔と謹慎の日々を送るレオンティーズと会い、二人の仲を取り持ってくれるよう頼む。そこへ息子を追ってきたポリクニシーズが現れ、二人の王は16年ぶりの再会を果たす。同行してきた羊飼いにより、パーディタがレオンティーズの娘だということも明らかになり、二人の婚約が認められる。シチリア王の暗い雲がようやく晴れようとしたそんな時、侍女ポーライナは皆に亡き王妃ハーマイオニの彫像を見せる。亡き妻、顔を見ぬ母への思いがいっそう募るなか、ある奇跡が訪れる。なんとその彫像は生きている王妃であるとわかり、一同の歓喜でこのロマンス劇は幕となる。
《ポイント》
1 4大悲劇を書き上げたあとの、晩年に近い時期に書かれた「ロマンス劇」。暗く悲劇的な前半から一転、16年を経て、後半は若い恋人たちの結婚を中心に、再会、復活へと展開する喜劇的盛り上がりの対照が見事で、観る者を幸せにする作品です。 2 「冬物語」は、よみがえりの奇蹟の物語です。ただし、この奇蹟は観客にも知らされていません。「から騒ぎ」や「十二夜」でも奇蹟の結末はありますが、からくりが観客にあらかじめ知らされています。これに対して、シェイクスピアは、この「冬物語」に至って”奇跡の復活を代償に最後の大嘘をついた”と評している人もいます。 3 前半と後半の16年の経過に、「時」と呼ばれる人物が登場する。この擬人化された「時」が、「一挙に16年も経過させるのは無茶だと思う人がいるかも知れないが、私は時だから何でもできるのだ」という台詞は、古典劇の三一致の法則(時、場所、筋)に、あえて開き直っているシェイクスピアの劇作家としての心意気が感じられて面白い。
《名せりふ》
第W幕第1場〜「時」の口上 一部の人を楽しませ、すべての人に試練を課し、
善人にも悪人にも等しく歓びと恐怖を与え、
間違いを犯しもすれば暴きもする、
「時」と名乗ったこの私、
ただいまから翼を使わせていただきます。
一気に飛び出す16年、時が大きく隔たるうちに生じた
ことは説明せずにおきますが、目にも止まらぬ一足跳びを
お咎めなきよう願います。I, that please some, try all, both joy and terror
Of good and bad, that makes and unfolds error,
Now take upon me, in the name of Time,
To use my wings.
Impute it not a crime
To me or my swift passage, that I slide
O'er sixteen years and leave the growth untried
Of that wide gap,(松岡和子訳) ※松岡和子さんの訳注
擬人化された伝統的な「時」の姿は、大きな翼のある老人。手には砂時計を持っている。すべてを刈りつくす大 鎌を持っていることもある。はげ頭で、前頭部にひと房だけ毛が残っている。Take time by the forelock.(時の前 髪をつかめ=好機をのがすな)という諺がある。
《観た読んだ歴》
play
2009年2月1日
彩の国シェイクスピア・シリーズ第21弾
さいたま術劇場
蜷川幸雄演出
CAST
唐沢寿明 レオンティーズ
田中裕子 ハーマイオニ/パーディタ★蜷川シェイクスピア第21弾を観ました。
舞台はシンプルでしたが、シチリアの赤とボヘミアの青が対照的にシンボライズされていました。
★場面展開の要所に「紙飛行機」が舞台上をゆるやかに飛び続けていました。蜷川幸雄さんは、「レオンティーズとポリクシニーズの幼馴染が、少年期の懐かしさや失われた時間といったさまざまなことを、この紙飛行機に仮託した。」と言っています。
★唐沢寿明さんのうまさと、田中裕子さんの二役が光っていました。
《観た読んだ歴》
film
《観た読んだ歴》
book
2009年1月
松岡和子訳
ちくま文庫 シェイクスピア全集18★蜷川シェイクスピア第21弾で使われた台本です。大変読み易い本です。注釈も翻訳者の率直な話が書かれていて面白い。