ヤギとコミュニケーションをとろう
 
                          広島ミニヤギ牧場
                          菅原 常司
はじめに
 動物は,よく観察し,ふれあってみないと分からないことたくさんあります。ヤギとふれあっていると感性が豊かな生き物というのがよく分かります。ヤギは,ヒトと社会性を持つ能力やヒトを好きになる能力が高いところが他の草食系の家畜には見られない良いところだと思います。
 ヤギには,不思議な魅力があります。ヤギは,犬のように感情を表にださないのですが,つきあっていく内に繊細なヤギの心の動きが分かってきます。
 ヒトと仲良くなるには,触ってあげることが必要です。慣れてくると,エサを持っていなくても寄ってくるようになります。手で体に触ると気持ちよさそうな表情になったり,そっと近づいて寄り添ってくれたりします。そんな,ヤギと人が心を通わせる瞬間が楽しく,心が癒されます。ヤギと遊び,じかに触れる体験を持つことで,温かみを感じたり,ヒトと同じように生きている生き物がいるということの不思議さ,すばらしさを感じてもらいたいと思います。
 
1 ヤギの変わった行動 
 
@ぺろぺろする → 額をすり付ける行動 
 動物がコミュニケーションを取る時に使う器官は,攻撃に使う器官と同じであったりします。ヤギは,ケンカをする時,額と額をぶつけ合います。ヤギ同士の挨拶は,「額と舌」でコミュニケーションをとります。互いの顔をペロペロしたり,額と額をコンコン合わせたりします。
 
Aヤギが額をすりよせてくるのはあいさつ行動
 ヤギに額を押し当てられることがあります。これは,ヤギが人に額をスッと寄せてきたら,「親しみを込めた挨拶」ととらえて良いと思います。
 ヤギは,舌でペロペロと人の手をなめてから,額を数回軽くすりつけてきます。この行為は,人間を相手にしていても,ヤギと同じコミュニケーションをとろうとする行動です。
 この行動を知らないと,人間と体型が違うため,互いのコミュニケーションのすれ違いが起き,ヤギをしかったりしてヒトに慣れなくなります。
人がヤギの額(ほっぺ)をなでると喜ぶ反応も,実はヤギにとって,額を相手の顔に額をすりつける「ヤギの挨拶」と同じ行動です。ヤギの反応には,優しい気持ちが詰まっていることを知ってください。
→お返しにヒトも角度がよければ,ヤギの額をすりつけてみたり,ヤギについて歩い てみたりして,気にかけていることをアピールとますます仲良くなれます。
B「ヤギの遊び行動」
 頭と頭で軽く押し合う。枯れ枝をくわえる。頭や前足を使ってものを動かす。体をくねらせながら跳ね回ったり,急旋回したりする。母ヤギやヒトの背中に登る。子ヤギ同士で追いかけっこする。足場の悪いところや高いところにへのぼる。
※「マウンティング」…オスとオス同士の間でも,性行動のまねをします。
 
D「ヤギの反駁行動」
 ヤギは,食べたものを吐きもどして消化しやすいようにかみなおします。その時は,嫌がらずに触れさせてくれますが,口の動きが止まるようだったら触れないでください。特にヤギは,特にエサを目にすると食べることに心を奪われて回りが見えなくなってしまうからです。エサを食べている時は,目の前のエサは全部自分のもので,いつも遊んでいるヤギ同士でもライバルになります。顔ではじき飛ばしたり,追い払おうと耳をかんだりします。優しく,そっと見守ってあげましょう。
※小さい子ヤギや角のない弱いヤギは,体の大きい大人の山羊たちに耳をかまれたり 頭突きをされたりします。これは,「群れの中の序列」をたたきこむ行動です。
2 ヤギと親しむ方法
 
(1)「ヤギ語」でヤギの気持ちを知ろう
 ヤギは,鳴き声でコミュニケーションをとっているかどうかは定かではありませんが,親子で,はぐれた子ヤギが母ヤギを探して鳴くと母ヤギが鳴き返して鳴き声で確認をとっている場面を目にすることがあります。
 
 @ヤギ語
助けて〜,どうにかして
 
メェ! メェーッ!
強く,長く鳴く
追われる,角がひっかかった時,強く要求している時の意思表示
そばに来てほしい
さみしい
 
メェ〜ン
メヘェェェ〜
か細く鳴く

ヒトを呼んでいる時
 
がまんできないよ

 
メェーー
メーーーン
強く短く鳴く
そばに来てほしい時等,困っている意思表示
 
お腹すいたよ
 
メェ メェ メェ
と繰り返し鳴く
要求する時
 
うれしい時
甘えている時

 
ンメェェ〜
ンンンン〜
ククククク
小さく鳴く
喜んでいる時
満足している時

 
 
 A鼻,臭覚
 母ヤギは,子ヤギの臭いに敏感で,子ヤギのおしりの臭いをかいで認識します。臭覚が発達しており,草を食べる時は臭いをかいで食べる動作や防虫スプレーをかけるとしきりに「クシュンクシュン」とむせたりします。
 B視力
 顔の左右に目がついているので視野は広く,320度から360度あると言われ,動かなくても周りのものが見えます。しかし,近い場合,焦点を定めてものを見るのは苦手と思われます。夜の視力は高く,暗くてもでも草を食べます。ヤギの目の色は,いろいろですが,黄色や茶色が一般的なようです。
 C聴覚
 音に対する反応は早く,わずかな音でもピンと両耳を立てて周囲を確認します。
 
3 ヤギが喜ぶさわり方  ※ヤギに触ったら必ず手を洗おう。
 
 それぞれヤギの性格はみな違います。落ち着きのないヤギ,見かけは怖いけど人なつっこいヤギ,おっとりしたヤギ,臆病なヤギ,人見知りするヤギ,警戒心の強いヤギ,引っ込み思案で寂しがり屋なヤギ等,いろいろです。
 ヤギの中には,慎重で人間にあまり関心を示さない個体もいますが本当は,ひとりぼっちが苦手で,だれかといっしょにいるのが好きです。
 まず,ヤギと仲良くなるには,「優しく頭をさわって」あげてください。ヤギのかわいさは,「エサをくれた人の顔を覚えている」ことです。しかし,ヤギの本当のかわいさは,自分からなでてほしくて「すり寄ってくるところ」です。人に慣れてきて,なでてほしい時はいっしょについて来たり,顔を見上げて見つめ,顔をスリスリしてきます。人に近寄ってこないヤギには,名前を呼びながらまずエサを与えます。次に,名前や声をかけながら軽く頭をなでてあげてください。
 
(1)なで方のポイント
ヤギの目の高さに合わせる
 犬と違い,目を合わせることを嫌がりません。目の高さを合わせると好奇心が強  いので,自分から近寄ってきます。
A ふれると喜ぶ所 
 まず,軽く首から背中にかけてなでてあげてください。仲良くなったら,マッサー ジします。左の首を上から下へとなでていきます。
(2)好きな部位
 ◎角の間をゆっくりとグリグリかく。
 ◎耳の後ろをかく。
 ◎毛並みにそって首や背中をさする。
 ◎首輪の下をゴシゴシかく。
×足の関節より下をつかむと嫌がる。
×横になっている時に,触って首をふったら嫌がっている合図。
※背中をなでられるのがあまり好きでないヤギもいます。
※若いヤギの中には,強く触れられるのが苦手で,顔や頭を長く時間さわると逃げ  る時があります。その時は,背中を毛先にそってザツザッと軽くなでる。
 次第に慣れてきたら,「ほっぺ」を優しく触って,なでます。
頭を回すようにふったら「いやがっている」合図です。おとなしいヤギは,そっと 離れていきます。いやがっている様子を見せたら,すぐにやめてください。
※ヤギは,どちらかというと子どもが苦手です。自分より体の小さい者や頭の高さが 自分より低い者をナメてかかる傾向があります。大人がいっしょになでてあげると おとなしくなります。
 
4 さわる順序  ※ヤギから見える位置に近づいて触わろう
         ※お腹を触られるのは苦手です
 
@ヤギが見えるところから近づき,触ります。ただ,ヤギによって,どこをなでられ たいかそれぞれに好きなところが違います。基本は
 「頭」→「ほっぺ」→「首や背中」となでるようにします。
A気持ちが良い時,ヤギは自分から刺激のある方向へ首や頭を傾けます。
 特に,「耳の後ろと角の間」をかかれるのが好きです。
Bなで終わって,ヤギが頭を軽くすり付けたり,見上げるように見つめられたら気に 入られた証拠です。ヤギのほっぺをなでていると,脇の下や腕の間にちょうどよいスペースへ頭をぐいっと寄せて来たり,目の前に「手」があるとなめてきたりします。
5 ヤギに触ってみよう
 
 声をかけながら頭→ほっぺ→耳の下→目の下あたりをなでる。→首をなでる。
 
6 ヤギにしてはいけないこと
 
 @ ヤギに急にかけよったり,急に飛びついたりしない。
 
 A ヤギの「角」はつかまない。
 
危険 頭を押さえつけられるのをいやがります。その時,目線がヤギと同じ高さだと   首を上下にふり,ほほや目をつく場合があるので十分気をつけましょう。
 
 B ヒトに頭突きをしようとするヤギは,近づかない
  ヒトに慣れていないオスヤギは,頭突きをしようと身構える行動や頭突きをして きます。これは,子ヤギの社会化期に十分ヒトとコミュニティ持った経験が少な  いからで,幼い頃から飼い主は「制止をするコールのしつけ」をする必要があります。
 C 突然,大きな音はたてない
 D 子ヤギは,敏感
 子ヤギの中には,「頭のつむじや耳の後ろをかかれる」のが苦手なヤギもいます。 その時は,ほほや首筋をやさしくなでる。気持ちいいと顔を手に押しつけてきます。
 
 E ヤギ同士で額と額をぶつけ合う行動を見たら
 挨拶のようなもので,頭突きで群れの中の優劣を決める行動です。人間はおそわな いので安心してください。