学校における動物飼育に関する考察 本文へジャンプ
はじめに
 
学校を取り巻く社会環境の変化
近年,集合住宅や高層住宅などの住宅事情や両親の共働きなどの理由から動物を飼うことがむずかしくなかったり,飼いたくても飼うことができなかったりする状況がみられるようになり,子どもたちの多くは動物と接触する機会が減ってきました。また,核家族化や少子化により家族の形が変化し,人間関係が希薄になってきているといわれています。
そして,かつては子どもたちが日常的に動物と接することができた環境から動物に触れ合う機会や生き物の誕生,死別にあうことも少なくなってきました。このような中,動物と接することで子どもの人格形成に影響があり,動物とふれあったり,世話をしたり,時には,生と死を体験することによって,生き物への慈しみや命の尊さを学ぶことの重要性が認識されるようになってきました。
1 学校での動物飼養の役割 
このような都市型社会(人口の都市集中,住宅の集合・高層化)や少子高齢化,核家族化などの社会環境が大きく変化し,動物の飼養に関して時代に即応した基準が求められるようになってきました。環境省では,一般家庭および幼稚園,学校,福祉施設での動物飼養も念頭においた基準として,「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」(平成14年5月28日環境省告示第37号)を制定し,施行されました。内容の第6では,学校,福祉施設などでの取り扱いに関する事項が示されました。
第6 学校、福祉施設等における飼養及び保管
管理者は,学校,福祉施設等の利用者が動物の適切な飼養及び保管について正しい理解を得ることができるように努めること。
管理者は,動物の飼養及び保管の目的,学校,福祉施設等の立地及び施設の整備の状況並びに飼養又は保管に携わる者の飼養能力等の条件を考慮して,飼養及び保管する動物の種類を選定すること。
異種又は複数の動物を同一施設内で飼養及び保管する場合には,その組合せを考慮した収容を行うこと。
管理者は,動物の飼養及び保管が,獣医師等十分な知識と飼養経験を有する者の指導の下に行われるよう努め,本基準の各項に基づく適切な動物の飼養及び保管並びに動物による事故の防止に努めること。
管理者は,学校、福祉施設等の休日等においても,動物の飼養及び保管が適切に行われるよう配慮すること。
管理者は,飼養及び保管する動物に対して飼養に当たる者以外の者からみだりに食物等を与えられ,又は動物が傷つけられ,若しくは苦しめられることがないよう,その予防のための措置を講じるよう努めること。 
そして,学校教育においては,飼養動物を単なる教材としてだけではなく「いのちの教育」=子どもたちが生命をみつめ,命と向き合い,命を大切にする態度を養う教育的な役割が見直され,求められるようになってきました。
 
2 飼養及び保管に関する基準の対象と飼養者の責任について 
 
この基準を守る者としての飼養形態や飼養目的は,生態観察あるいは情操教育のため学校や幼稚園,各種福祉施設などで動物を飼養している者が対象になります。そして,飼養者としての責任は学校などにおける動物の飼養および飼養施設の管理者にあるとされています。 
 
3 学校飼養動物の現実的な課題
家庭で動物を飼育することが多くの恩恵をもたらすと言われていても,それができない状況があります。そのために学校で動物飼養が行われています。今,学校における動物飼養の役割が見直され,学校での飼養は極めて貴重な体験,生き物を飼うことは子どもたちの心を育てる教育として理解されています。しかし今,全国では動物を飼養していない学校や子どもたちが動物とふれあう機会が一時的で,エサを入れるだけの作業的な活動で,動物と接することが少なく,学校で動物を飼うことが困難になってきている学校がみられるようになってきました。さらに,教員の職務の多様化により動物飼養の適切な飼育法やふれあう子どもたちの心の影響や飼養の意義,教育効果に関する知識を得る機会が少なく,動物の生理や習性を考慮しない飼育も行われている状況も見られ,学校だけでの対応は難しく,動物を飼養する上で様々な課題がみられるようになってきました。
4 学校における動物飼養の問題点 

学校における動物飼養の問題点を指摘することは容易ですが,単に指摘し,非難するだけでは問題の解決にはなりません。動物が健康に暮らすことができるよう,獣医師などの専門家や愛玩動物飼養管理士の指導のもとに,動物飼養に教員や子どもたちが共に関わり,動物の幸せや飼う楽しさを感じ取ることが,本当の教育活動になると考えます。
@動物飼養に関する教員の研修 
学校での動物飼養は,動物園やふれあい施設の利用のようにいろいろな動物を子どもに見せるために飼うのではなく,子どもに飼養を通して,命と愛情を教え,人としての基礎(土台)を養うためにあると考えられています。しかし,教員養成において動物飼養の課程(履修コース)はなく,専門外として捉えられています。そこで,教育の現場では教育センターで研修をしたり,学校独自で研修の機会を設けたりしています。
A飼養を敬遠する教員(動物に触れない教員)
子どもの心を情愛豊かに育てるには,教員が動物を可愛がり,愛情を教え,伝えなければなりません。しかし,「動物をかわいがろうね」と指導する先生が実は動物にさわれない,動物を飼った体験を持たない先生もいます。また,動物飼育や動物と人の関係を学ぶ場や体験がない,飼養の知識のないまま飼育に関わらざるを得ない状況もあります。教員が自信がもてるよう専門家に協力してもらい,学校の飼養環境即した具体的で実技的な研修を実施することが必要だと考えます。
B飼養動物が病気やけが(事故)をした場合の対処・相談
学校で生き物を飼っていると病気やけがは当然起こります。しかし,ほとんどの学校では飼育動物が病気やけがをした時,治療する予算はありません。そのため,世話をしている子どもたちが心を痛め,悲しい思いをしたり,子どもたちが動物の死に鈍感になったりしてしまいます。飼養している動物が病気やけが,死んだ時の対応を明らかにし,動物に対する教育的な配慮を正しく行えば子どもたちへの教育効果(命を実感する教育)があるはずです。そこで,医療費の予算措置や動物病院の獣医師,専門医との連携が急がれます。また,飼育動物に関する疑問や悩みを動物病院,獣医師に気軽相談できる体制を整え,学校教育ではできにくいところを補ってもらうようにすることも一つの策として考えられます
C飼養動物の休日の世話と協力体制づくり
生き物である動物の飼養は,週休2日の学校の勤務体制にはなじみません。学校が土曜日や日曜日,長期の休みになると安全管理の問題から,子どもが世話をしなくて,先生たちが当番制で世話をする学校がみられ,教師主導で飼養が行われているのが現状です。これでは,教員の負担が大きく,子どもたちの責任感を養うことは難しい思われます。そこで,休日の管理の方法については,地域の人たちによるボランティアとして学校外の人の手助けや協力を求めていくことも考えていかなければならないと考えます。
D教師の負担への配慮
動物を管理する教員からは,動物飼養は生き物だから精神的な負担が大きいという声が聞かれます。学校での日常的な飼養管理は,子どもたちが飼育委員会(生き物係)を組織し,当番を決めて常時活動として給餌や飼育舎の清掃を行っています。それを担当する教師の現状をみると,日々多様な仕事をこなし,子どもたちへの適切な飼養指導や管理に十分な時間がとれにくく,難しい問題となっています。動物の飼養は非常に手のかかることでもあり,獣医師の指導や教職員の努力が必要不可欠です。
 
Eアレルギーのある子どもの配慮と安全指導 
動物アレルギーが原因で直接動物の世話ができない子どもたちには教育的な配慮が必要です。例えば,生き物の名前の募集やポスターづくり,アンケートなど,工夫をすれば,動物との関わりがつくれると思います。また,学校全体の保健・安全指導も必要になります。鳥インフルエンザのウイルスは渡り鳥が運ぶもので,学校で飼われている鳥が感染する確率や人に感染する確率は非常に低く,その他の動物が由来する感染症についても,飼育小屋をいつも清潔に保つよう飼養管理者が点検し,動物に触れた後は手洗いやうがいをすること,エサの口移しなどの接触はしないことを子どもたちに正しく指導徹底をすれば防ぐことができます。子どもは,大人の動物の扱いを見て物事を学びます。教職員全体で常日頃から動物に対する意識を磨いておかなければならないと考えます。