「ノリゲー」 藤本憲一


 「次世代ゲーム機戦争」と呼ばれた、ポスト・スーパーファミコンの規格標準化競争。ソニー「プレイステーション」(略称「プレステ」)が、任天堂「64」やセガ「サターン」(「ピピン」「たまごっち」を擁するバンダイを10月に吸収合併の予定)を押さえて、頭ひとつ抜け出した(『AERA』『WIRED』)。たしかに年末年始は全国的に売り切れ店続出。「デジキューブ」社が新しいコンビニ・ルートによるゲームソフト流通を開始したばかりなのに、「品薄のためプレステ本体の予約を中止しています」という、レジ脇の貼り紙が目立った。
 公称国内500万台、全世界1100万台という「プレステ」本体の売上げをひっぱったのは、いうまでもなくソフトの力である。とくに、「技術のSONY」「音楽のSME【ソニー・ミュージック・エンタテイメント】」を背景にもつ新会社「ゲームのSCE【ソニー・コンピュータ・エンタテイメント】」が、どんな路線のオリジナル・ソフトを打ち出すか。それは、ベータVHS戦争、DVD戦争など全世界メディア標準化競争に苦杯をなめてきたソニーのソフト/ハード一体戦略の新展開を占う意味をもつ。
 昨年12月発売、売上げ30万本を突破した「パラッパラッパー」こそ、ソニーならではの「ノリゲー」。ノリやリズムそのものを楽しむ体感ゲームである。NYのイラストレーター、ロドニー・グリーンブラットがキャラクターをつくり、現地レコーディングのラップ音源と合わせて、日本でリミックスしたところも、音楽制作に似ている。
 さっそく1月、梅田のディスコ「ナイトカフェQoo(クゥー)」で開かれたイベントへ出かけてみた。「世界初のゲーム会社所属アーティスト」を自称する、松浦雅也(元「PSY・S」)が丸二年間、音楽活動を休止してまで総合プロデユースにのめり込んだだけあって、「ノリ」体験の原点を志向する、ユニークな仕上がり。イベント会場では、松浦みずから「ノリ」のお手本を見せたあと、集まった二〇〇人の来場者がハイスコア・コンテストにチャレンジした。
 テレビゲームの各ジャンルは、元祖「インベーダー」のシューティング、「マリオ」のアクション、「テトリス」のパズル、「ドラクエ」のRPG【ロール・プレイング・ゲーム】、「Dの食卓」のアドヴェンチャー、「シムシティ」のシミュレーション、「バーチャファイター」の3D格闘など、名作ゲームの登場によって、切り開かれてきた。「ノリゲー」という新ジャンル確立をめざす「パラッパ」は、近年流行したブラック・ミュージックのラップ「ノリ」をマスターすべく、ただひたすらボタンをシンコペーション・リズムで連打するだけという、一見単調なゲームだ。しかし、ともすると画面をにらんで前屈したまま姿勢がこわばりがちなゲームが多いなかで、ひとり部屋にこもってやっていても、しぜんに足踏みをし、からだが左右にゆれはじめ、大きく前後にスイングしていき、鼻歌のひとつも飛び出しそうな伸びやかさがある。不健康な現代にうってつけの「癒しゲー」ともいえるだろう。 

1997年1月31日  『メディア人間学』  京都新聞朝刊14面

ふじもと・けんいち  

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