「痛い」とはふつう自覚症状をあらわす。これに対して、不適切な言動、あるいは、不適切な行いをしばしばしでかす人で、その不適切さに全く気づかない場合に使われるのがこの言葉。「あの人はイタい」という具合に使われる。また「イタいギャグ」といえば、言った本人はウケているつもりでも、全然笑えないものを指す。
第三者に用いられるという意味では「痛々しい」とか、「片腹痛い」という意味合いに近いかもしれない。その点で、周囲の視線を気にする最近の若者が使うのも理解できる。また同時に、この言葉がもつ微妙なニュアンスの伝えにくさは、意志の疎通がしやすいごく身近なところに親密な関係を限定し、その中で同調的に行動する彼ら、あるいは彼女たちの風潮を象徴しているともいえるだろう。
(関西大総合情報学部講師)
1999年6月28日 『よいこの今ドキ語』 毎日新聞東京本社版朝刊13面
岡田朋之 おかだともゆき
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