「やみで」

 関西の若者が使う言葉である。漢字で表記すると「闇で」。人に隠した闇の部分、自分も知らない闇の部分、つまり秘密の部分という意味で、「実は」や「本当は」と同義語である。「やみで、今、腹がたっているでしょ。どうしたの?」といった使い方をする。
 社会学者のジンメルによると、秘密は、人と人の関係を疎遠にさせたり、深めたりする。人と人の関係は、お互いの何ごとかを知り合っているということにもとづいている。その知り合っている内容が、関係を特徴づける。
 人は、他人に本音を見抜かれるとドキリとするものだが、それでより親しくなることもある。
 こうしたお互いを察するための言葉がよく用いられるのは、人間関係に過敏な現代の若者を反映しているのかもしれない。

1999年9月14日  『よいこの今ドキ語』  毎日新聞東京本社版朝刊17面

羽渕一代 はぶちいちよ  

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