「D.V.」

 ドメスティック・バイオレンス、家庭内暴力という意味である。最近、親による子供への虐待が増加していると報じられていた。これは一見、悲しいニュースに聞こえる。しかし、今まで誰も知らないところで暴力が行われ、社会的に取り上げられてこなかっただけと考えれば、喜ぶべきことといわねばならないのかもしれない。
 こうして家庭内暴力に衆目が集まり、話題となることで、略語や口にしやすい言葉をつくり、使用選択するようになる。日本語で「家庭内暴力」というと、重苦しく陰惨なイメージがつきまとい、口に出すときに心に引っかかるものをつくってしまう。D.V.ならそれほど重くならずにすむ。広く口の端にのぼることが吉とでるか凶とでるか。それだけでは問題は解決しないことは確かだが。 (奈良女子大学大学院博士課程)

1999年5月24日  『よいこの今ドキ語』  毎日新聞東京本社版朝刊11面

羽渕一代 はぶちいちよ  

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