「グルーヴィジョンズ」 岡田朋之


 京阪丸太町駅にある「メトロ」といえば、京都の中でも比較的古い歴史を持つクラブである。こぢんまりとしたホールではあるが、若者たちにとっては関西のクラブカルチャーの中心的なメッカのひとつだ。
 昨年の暮れも押し迫った十二月二十九日深夜、その「メトロ」に二百人を超す入場者が詰めかけ、中は超満員となった。クリスマスから年末にかけてのクラブといえばどこも大勢の若者たちでにぎわうもの。しかし、その晩の盛り上がり方は少し違っていた。かつては月に一度のレギュラー・イベントとなっていた「グルーヴィジョンズ」を京都で体験できる最後の機会だったからだ。
 グルーヴィジョンズとは、京都工繊大で教鞭をとっていたこともあるデザイナーの伊藤弘さんを中心とするクリエイター集団であり、彼らのおこなうパフォーマンスの呼び名でもある。その名の由来は「グルーヴ(音楽などのノリ)」と「ビジョン」をつないだ造語。クラブDJは、ハウスなどのダンス・ミュージックにあわせてスクラッチ・サウンドをはさみ込んだり、別の曲にスイッチングしたりすることで、その場特有のノリを作り出す。それとちょうど同じように、グルーヴィジョンズではDJのかける曲にあわせて映像をすばやく切り替え、その中にある種のグルーヴ感を作り出していく。いわば視覚と聴覚の両方からハコ全体をノリで包むわけである。
 そこで流れる映像の素材は、メンバーの一人、斉藤和寛氏によって選ばれたもの。古今東西の映画、CFなど膨大なコレクションの中から、あるモチーフに沿って集められたカットを次から次へと繰り出してくる。そこへすばやく挿入される伊藤氏デザインのロゴなどが視覚的なメリハリをつけ、見る者を圧倒する。
 彼らのアプローチでは、あらかじめ作成・編集しておいた映像のパーツを現場で組み立てるという手法をとる。ビデオ、コンピュータなどのメディアを集約し、デジタルという共通のプラットフォームの上で、さまざまな情報をクロスさせるという手法は、今日のアートや音楽の流れに沿ったものである。しかも彼らに特徴的なのは、それを状況にあわせて具体化し、独特の雰囲気を生む点だ。
 ここ数年はポップスの人気グループ、ピチカート・ファイブのライブステージで共演したり、CDのデザインを担当。ラップで有名なスチャダラパーのジャケット・デザインも手がけるなど活動の場を広げてきた。その結果として伊藤氏が拠点を東京に移すことになり、残念ながら京都では昨年末限りで見おさめとなってしまった。
 彼らの送り出すデザイン自体にしても、グラフィックソフトを使いつつあくまで紙メディアにこだわって表現するなど、何かしら媒体をこえた手ざわりのようなものを感じさせる良さがあった。そうした作品群とともに、味わいあるパフォーマンスを身近に体験できなくなるのは正直言ってさみしい。しかし、東京進出によってその活躍の場が一層拡がっていくことに期待したいと思う。

1997年2月7日  『メディア人間学』  京都新聞朝刊17面

おかだ・ともゆき  

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