「ファッション美術館」 岡田朋之


 去る四月二五日、神戸・六甲アイランドに神戸ファッション美術館がオープンした。日本で初のファッションの美術館であり、世界のモードを一堂に集めたこともあって、このゴールデンウィーク中も多くの入場者でにぎわったようだ。だが、この美術館で注目すべき点はほかにもある。
 まず第一に、今世紀に至るファッションの歴史がメディアの生み出すイメージと密接に結びついて展開してきた点を踏まえ、次世紀のメディア文化とファッションのあり方を展望するマルチメディア的な展示をおこなっていることである。その一例として各年代のファッションシーンをまとめた短いビデオクリップをその場で選んで楽しめるコーナーがあるほか、メインのフロアでは「インスパイアレーション」と銘打ったマルチスライドショーが一時間ごとに上映。フロアの床、天井、壁面のすべてが現代社会を象徴するおびただしい映像で埋め尽くされる。マルチメディア的という意味では、同じ四月にオープンした東京・新宿のインターコミュニケーション・センター(ICC)も話題にのぼっているが、こちらもそれに劣らぬインパクトがある。
 もう一つの目玉はリソースセンターと呼ばれる資料室だ。その中のライブラリーには現在日本で手に入るファッション雑誌のほとんどが網羅されているのはもちろん、建築、音楽、映画はおろか、車やパソコン関係の雑誌や書籍も数多く取りそろえられている。さらには、現代のファッションのイメージと密接に結びついている映画や音楽の世界についても知ることができるように、合計1万本以上におよぶビデオやCDを集め、その場で視聴できるようになっているのである。こと雑誌資料に関しては、これだけのアイテムをそろえているのは関西では初めてといってもいいかもしれない。これまでこの種の雑誌のバックナンバーを探す場合には、東京の大宅壮一文庫まで足を運ばねばならなかったことを考えれば、その有り難さもわかろうというもの。しかもこのライブラリーは美術館本体とは別に、無料で利用できるというのも大きな魅力だ。現代の文化がメディアを媒介としたポピュラー文化に代表されるとすれば、このファッション美術館は、さしずめ関西における「ポピュラー文化の殿堂」といっても差し支えない。
 このところ思想界で話題の新しい文化研究の潮流「カルチュラルスタディーズ」をはじめとして、ポピュラー文化を学問的な対象としてとらえようという動きがあらためて高まっている。しかしながら、そうした具体的な資料の数々を収集し、データベースとして利用するための施設はまだまだ不十分だ。そんななかファッション美術館に設けられたこれらの施設は、単にファッションやモードの分野にとどまらない、文化という形にあらわれた現代社会の私たち自身の姿をあらためて見なおす上で、きわめて大きな役割を担っているともいえるのである。

1997年5月23日  『メディア人間学』  京都新聞朝刊17面

おかだ・ともゆき  

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