近年、子どもたちの電子玩具の世界でも通信機能を搭載した携帯コンピュータゲームが人気を集めている。
昨年ニ月にバンダイから発売された「ポケットモンスター」(通称ポケモン)は、任天堂のゲームボーイ用のソフトであるが、十二月までに一九0万本、今年の一月末までに二六0万本を販売し、その後も月間四0万本のペースで売れ続けているという。その人気は、今や「たまごっち」と二分するほどである。四月には、「第五回日本ソフトウェア大賞」も受賞した。
ポケモンは、架空の世界を旅しながら一五一種類のモンスターを集めるロールプレイングゲームで、気に入ったモンスターを他のモンスターと戦わせて成長させることができる。このゲームの最大の魅力は、通信ケーブルで二つのゲームボーイをつなぎ、自分のモンスターを友だちのゲームボーイに移動(モバイル)し交換したり、対戦ができる点にある。
また、今年の六月に同社が発売した「デジタルモンスター」も、恐竜の姿をしたモンスターを育て、二つのゲーム機をつないで、育てたモンスター同士を戦わせるゲームである。
マルチメディア社会の一翼を担う小型のモバイルコンピュータが次々に発売され話題になっているが、コンピュータゲームもこのようにモバイル化しつつある。さらに、この動きを加速するような商品が登場した。
今年の六月に、DDIポケットが発売した「たまごっち」機能搭載のPHS「たまぴっち」がそうである。「たまごっち」を育てることができるだけでなく、電話帳登録してある人から電話がかかってきたときは、相手に合わせて「たまごっち」が4段階のリアクションをしてくれる。例えば、恋人や親友なら「超ハッピーのたまごっち」、会社や親なら「超ブルーのたまごっち」という具合である。さらに、自分の「たまごっち」を友だちの「たまぴっち」にお出かけさせることもできる。同社のPHSには、ポケベルのように文字の送受信ができるPメールというシステムがあり、この機能を利用してお互いの「たまごっち」を交換するのである。
もちろん、「たまぴっち」はPHSであるので、普通に会話もでき、さらにパソコンやファックスなどにつないで、最高速度14,400bps(一秒間に送れるデータ数)の高速データ通信も可能である。
遊び空間のバーチャルスペース化、サーバースペース化もここまでくると、「メディアで遊ぶ」リテラシー(読み書き能力)が、マルチメディア社会のリテラシーにつながり始める。また、そこに、今日の情報化や情報機器の有益な利用へのヒントを見つけることも可能になる。
マルチメディア社会というと、私たちは「光ファイバー」「インターネット」「モバイルコンピュータ」などに目を奪われてしまう。しかし、遊び空間のバーチャル化やサイバースペース化も社会の情報化を牽引しているのである。子どもの遊びと、ばかにしてはいられない。
1997年8月8日 『メディア人間学』 京都新聞朝刊12面
とみた・ひでのり