少子化の影響などで九三年以降マイナス成長が続いている玩具市場。テレビ
ゲーム人気にも陰りが見え始めているという。そんな中でも、子供向け電子玩
具は次々に開発され発売されている。
電子手帳は、ビジネスマン向けに開発された情報機器だった。その好調な売
れ行きをみて、OL向けの電子手帳も登場したが売れなかった。ところが、子
供向けに作った電子手帳が当たった。電子手帳大手のカシオ計算機が九二年に
参入して、子供向け電子手帳市場は一気に拡大した。カシオが発売した子供向
け電子手帳「JD−300」シリーズは、スケジュール管理や住所録の他に赤
外線を使った通信機能まで搭載していたのだった。その後、大手玩具メーカー
も参入し、子供向け電子手帳市場は、今日でもその勢いは衰える気配がない。
九四年のクリスマス商戦には、電子手帳から出る赤外線に向けて手を振ると、
画面上のペットが芸をする「ペットテレパシーJD−361」(カシオ計算機)
や、電子手帳の中でペットが飼える「フェリエ」(セガ・エンタープライゼス)
も登場した。
九五年になると、カシオ計算機は、通信用カプラを取り付けファックス通信
で絵や文字が送受信できる電子手帳「ピッキートーク」を発売した。ファック
ス通信と言っても、メッセージは紙にプリントとされるのではなく、電子手帳
の画面にスクロールしながらカラー映像で表示されるのである。さらに、この
ファックス通信でペットの家族やタレントのメッセージなどの情報がもらえる
「グルービーネット」を開設したところ、子供達からのひと月のサクセス数が
最高で一万五千件にまで達したという。また、セガ・エンタープライゼスが開
発中の通信型知育玩具「TV−MAIL」(仮称)も、テレビと接続して画面
を見ながらペン入力で絵や文字を描き、電話回線を使ってメールやファクスの
送受信ができる。電話回線を利用した通信機能は、今後、子供向け電子手帳で
は当たり前になっていくことだろう。
子供向けの電子機器は、テレビゲーム機だけではない。小さな電子手帳の中
の世界も、子供達のもうひとつの遊び場になり始めている。電子手帳の中でペ
ットを飼ったりファックス通信をしている子供達をおそらく多くの大人達は冷
ややかな目で見ることだろう。確かに、ペットなど飼えない都会の住宅事情や
塾や習い事で忙しい現代の子供達の生活環境もその背景にあるだろう。それが、
子供達を仮想の現実へ導く入り口のひとつになっている。ただ、必要に迫られ
てインターネット教室に通うお父さんたちよりも、はるかに子供達は楽しそう
だ。
家庭用テレビゲーム機だけでなく、その他の子供向けの電子玩具の中でも情
報通信革命は確実に進んでいる。子供達は、新しいメディア社会の楽しさに気
がついている。「最近の子供は・・・」と嘆く前に、子供向け電子手帳でも買
って子供と通信してみるのもいいだろう。私たちにもその楽しさが見えてくる
かもしれない。昔、糸電話で遊んだのを思い出しながら。
1996年11月29日 『メディア人間学』 京都新聞朝刊17面
とみた・ひでのり